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丸善創業150周年記念商品 開発者インタビュー

丸善は創業150周年を記念してさまざまな商品を発表します。 その中でも丸善の顔ともいえる万年筆「Athena the Pen」「檸檬」「VOYAGE(ボヤージュ)」の3種にスポットを当て開発を担当した宮原バイヤーに話を伺いました。


─今回の開発コンセプトは何ですか

「過去・現在・未来」です。その原点となったのは昭和14年に発表された北原白秋作詞、山田耕筰作曲の「丸善社歌」です。そこには丸善の存在意義が凝縮されている言葉に溢れており、オリジナル製品開発コンセプト選びの素材はこれ以外に無いと思いました。
 丸善社歌にある沢山のキーワードの中から結びの歌詞「丸善 時代の羅針」に注目して、過去・現在・未来という「時間軸をテーマ」にした商品の開発を目指す、という考えに至りました。

丸善社歌
【左】丸善社歌、【右】開発者:宮原バイヤー
─なるほど。過去現在未来のそれぞれの商品企画はどのように決められていったのですか?

バイヤーだけでなくお客様に最も近い店舗スタッフの意見を参考にすることでより完成度の高い商品開発ができると確信しており、旗艦店舗のスタッフと二年にわたって協議を重ねて構想を固めました。
 「過去」は往年の万年筆復刻を考えました。丸善は高価な輸入万年筆に対抗して廉価で高品質な国産万年筆であるアテナ万年筆の自社工場生産に成功します。約百年前という国産万年筆の創成期に自社生産に着手した開発スピリットに敬意を表して、開発当時のアテナ万年筆に焦点を当てました。
 「現在」は書店である丸善と縁のある作家・作品をテーマとしました。本来は現在活躍されている作家をとりあげるべきところですが、最終的に梶井基次郎『檸檬』に決めました。約百年前の作品であり130周年、140周年に採用したテーマでもありますが、当時即完売となりお客様から檸檬万年筆再販のお声が現在でも非常に強いことを店舗スタッフからヒアリングしたためリバイバルとなった次第です。
 「未来」は経年変化が実感できる天然素材を軸素材にすることで「これからの時間をユーザーと共に重ねていくことが実感できる」万年筆を開発しました。採用したコットンマイカルタという軸素材が織りなす絶妙な重量感とグリップ感に加え、超大型ペンが醸し出す、流れるような最上級の書き味は未知の体験になることをお約束いたします。

─テーマは決まりました。ひとつずつ商品開発ストーリーをお聞かせください。 まず「Athena the Pen」からどうぞ。

アテナ万年筆は自社工場生産を始めた昭和初期の時代感を徹底的に演出しようと考えました。まず万年筆自体は当時の商品型録を参考にして軸の模様を決めました。さらにオリジナル性を高めるため、胴軸にAthena the Penの刻印を入れました。そしてメモリアルな仕様は何かと考えた際、ドイツペリカン社スーベレーン万年筆の天冠に施された刻印を思い出しました。この天冠の模様は時代とともにデザインや仕様が変化しており、愛好家のなかではその変遷は書き味とはまた別の愛玩ポイントであるとも言われています。ロングセラーのスーベレーンのように永く愛される万年筆に育ってほしいという想いを込めて、天冠にアテナマークを刻印しました。
 ペン先の仕様は書き心地にこだわり、毛筆のように柔らかいタッチを目指しました。アテナ万年筆が開発されたのは昭和の初めでした。毛筆で育った世代に受け入れられたのはきっとソフトなタッチの万年筆だったでしょう。そういった時代感もペン先の柔らかさで表現したく特別ソフトなタッチの仕様である、パイロットコーポレーションのカスタムカエデ万年筆に搭載されているペン先を採用しました。このペン先はカスタム742シリーズでソフトペン先が開発されるまで唯一の仕様であった厚みの薄いペン先であるだけでなく、ペン先の形状も丸みの効いたカスタム74シリーズのペン先と異なり、丸みのほとんどない「板状」であり、外観も末広がりの形状であるカスタム742シリーズに対して直線的なフォルムであるなど、よりソフトな書き味を愉しめるペン先なのです。

Athena the Pen
天冠のアテナマークと「Athena the Pen」

万年筆以外のものに関しても時代感を表現しました。まずは2016年に国立民俗博物館で開催された万年筆展に展示されていた昭和モダンの雰囲気溢れる化粧箱に注目しました。瀟洒(しょうしゃ)で無駄のない小ぶりなサイズと今でも色褪せない斬新なデザインが妙に記憶に残っており、いつかこういう雰囲気をオリジナル製品で表現してみたいと思っていました。よく高級菓子メーカーの化粧箱の美しさに魅了され、「パッケージ買い」して化粧箱を小物入れとして使われている方もおられるかと思いますが、万年筆だけでなく化粧箱や付属品からも昭和モダンの雰囲気を楽しんでいただけるように工夫をしました。まず、万年筆や付属品の土台を外して頂ければ細身の小箱としてお使いいただけます。そして「アテナ」ブランドを筆記具だけでなく、「装身具」としても楽しんでもらえるようアテナの代名詞であるアテナインキのボトルをかたどった「ピンバッチ」をお付けしました。この非売品であるピンバッチを別売のアテナマーク柄トートバッグ(¥2,300+税)につけてもらいたい、という隠しテーマもあります(笑)。

Athena&pin
昭和前半期のデザインをモチーフとした化粧箱、アテナインキ型のピンバッチ、「丸善×ルートート トートバッグ」
─「檸 LEMON 檬」は3作目ということですが、過去の二作との違いは何ですか?

まず万年筆を女性にもっと使って欲しい、という想いがありました。弊社では約20年前から「萬年筆友の会」というサービスを続けておりますが、サービス開始時の会員は男性中心だったのに対して最近ではその比率が逆転しており昨今のインク需要の高まりも加え、女性向けのオリジナル商品開発は必須と考えていました。その観点から檸檬万年筆の仕様は前作より大型化するのではなく性別問わず使いやすいサイズにしました。
 書き味はしっかりとしたタッチでボールペンに慣れた方でも使いやすいペン先と言えます。また最大の特徴である万年筆の軸色はレモンのフレッシュ感を表現した緑がかったいわゆる「レモンイエロー」カラーにこだわりました。万年筆の軸素材である「樹脂」はカラー調合が難しくなかなか思った色が出せずに何度も試作を重ねましたが、イメージしていたレモンの果皮を彷彿とさせるレモンイエローカラーが実現しました。ペン先の字幅は細字、中字、太字の3種類をご用意しましたので、TPOに合わせてお選びいただけるようにしました。

LEMON
「檸檬」
【左】150周年、【中央】140周年(完売)、【右】130周年(完売)バージョン

「檸檬色の万年筆」「化粧箱を本の装丁にする」「文庫『檸檬』をおつけする」この三位一体のストーリー性のある商品が丸善の考えるオリジナル製品ですが、前作に引き続き今回もその仕様は踏襲しましたが前作以上に小説『檸檬』の世界観をイメージしていただけるよう工夫しました。まず化粧箱内には作品に登場する麩屋町の旧丸善京都店の画像とともに檸檬を購入した果物店「八百卯」が描写されている一節を転載しました。また歴代の丸善京都店そして八百卯の場所を記した略地図と年表を掲載して、小説『檸檬』に馴染みのない方にもその世界観が伝わるよう工夫いたしました。付属品の新潮社『檸檬』文庫は昭和42年の初版カバーを復刻したものです。

LEMON_BOX
「万年筆 檸檬」化粧箱
小説の舞台となった丸善京都店や果物店の歴史が辿れるパッケージとなっている。
─「VOYAGE(ボヤージュ)」に込める想いをお聞かせください。

創業当時の舞台は横浜で輸入手段も船の役割は大きかったです。未来に進路を取る船になぞらえて「航海」という意味のVOYAGEがぴったりと感じ命名しました。船の進路を決める際に大きな役割を担うのが「舵輪」です。丸善社歌にも「丸善 文化の把手(ハンドル)」という歌詞があります。お客様がこの万年筆を手に豊かな未来図を描くことができることを祈って天冠に舵輪マークをつけました。
 「未来:時を重ねる=経年変化が愉しめる」というテーマに基づき、天然素材の中で万年筆の軸材として適しているものを探しました。革・木・漆と数ある天然素材の中で注目したのがコットンマイカルタという素材です。これは2001年に弊社から発売した限定万年筆「ザ・センチュリー」にも採用されましたが、お使いいただくほどに独特の艶を纏うため経年変化がリアルに感じられる素材です。これは木綿を特殊な樹脂で固めたもので適度な重量感としっかりとしたグリップ感があるので、万年筆の軸素材として最適です。他に類を見ないしっとりとした、吸い付くような肌ざわりは是非店頭でお試し頂きたいです。但し、大変堅牢性が高く加工が難しいため、敬遠されていた素材ですが今回の「経年変化を愉しむ」というコンセプトにぴったりの素材であるためあえてこのコットンマイカルタという素材を選びました。素材の色として緑と黒の2色ありましたが、経年変化がより明確に表現される緑を選びました。

VOYAGE
天冠の舵輪マークとコットンマイカルタ経年(約18年後)変化イメージ

当商品はペン先の大きさに注目が集まるかもしれません。筆記具にとって書き味は大切なポイントですが実はペン先だけが主人公ではありません。意外と知られていませんが書き味を決める要素として、私は筆記具本体の重量とバランス、そして質感も重要と考えております。このVOYAGEはこれらすべての要素が高度に完成されているとともにバランスよく調和が取れている万年筆と言えます。
 どうぞ日本初お目見えとなる超大型サイズの21金ペンと軸材コットンマイカルタの組み合わせが織り成す絶妙な書き味をお愉しみください。

VOYAGE_img
「VOYAGE」筆記イメージ
─今回万年筆と同じ名前のペンケースがありますが、どうしてですか?

今回の「過去・現在・未来」のコンセプトをより明確にお伝えしたくて万年筆と親和性の高いペンケースにもストーリーテラーとなってもらい、それぞれの物語に花を添えてもらいました。
 まず「ペンケース for 檸檬」は小説『檸檬』を発想のベースにしてレモンの形を模した半円状のポーチ型ペンケースにしました。カジュアルなフォルムに加え、大切な1本が傷つかないように配慮して1本差しペンケースを付属しました。
 また「ペンケース for Athena the Pen」は昭和初期のイメージを万年筆だけでなくペンケースでも表現しました。アールデコ調の独特なタイポグラフィーを型押しで刻印することでイメージ通りの外観を作ることができました。上蓋式なので内箱と重ねることができ、また着脱式の仕切りなので取り外していただければ小物入れとしてもお使いいただけます。
 そして「ペンケース for VOYAGE」は経年変化を愉しんでもらえるようイタリア バダラッシィ・カルロ社にてバケッタ製法で一枚一枚丁寧に作成しているミネルバボックスを素材に採用しました。カラーはより経年変化が顕著に表れるキャメルカラーを選び、通常はクリップにはさんで固定するペンケースが多い中、当商品はクリップに負担をかけない形状にしました。いずれも同名の万年筆と合わせてお使いいただけるようイメージして作成しましたが、ペンケース単体でご購入いただくことも可能ですのでご愛用の1本を収納していただければ開発者冥利につきます。
 またペンケースだけでなく、檸檬をテーマにしたブックカバーやインク、そしてアテナマークを冠したトートバッグなども販売しておりますのでぜひお店にお立ち寄りください。

ペンケース
【左】「VOYAGE」、【中央】「檸檬」、【右】「Athena the Pen」のペンケース
─ありがとうございました。最後に丸善ファンの方々に一言お願いいたします。

おかげさまで150周年を迎えることができました。これからも創業時の「日本の発展と人々の幸福に寄与する」という想いをしっかりと受け継ぎつつ、時代とともに変化する多様な「知」との出会いを皆様にお届けしてまいりますので、どうか末永くご愛顧賜りますようお願い申し上げます。


開発者:宮原バイヤープロフィール

平成2年入社。初配属先である日本橋店で高級筆記具担当となって以来、約20年に亘り販売経験を積み現職は高級文具バイヤーであるとともにオリジナル製品の開発にも携わっております。当時の日本橋店で現在見ることのできない貴重な往年の銘品を数多くお客様から拝見し、また修理を承るなど非常に濃密な経験をさせていただいたことが今の私のアイデンティティーになっています。

宮原バイヤー
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