佐高 信
「腹が立ってボケられん」
1999年に88歳で亡くなるまで、わが師、久野収はこう言って、権力の腐敗に怒りをぶつけつづけた。
学生時代にその講演を聴いて以来、ほぼ36年にわたって私は久野の薫陶を受けてきたが、自らが若き日に反戦運動で投獄された体験を原点に、いかにして平和への市民の意志を結集するかを久野は日夜考え、自身、そうした運動の先頭に立ってきた。
久野のしなやかさと語り口の魅力は、五木寛之が「落語家の噺よりおもしろい」と評したくらいだが、それはどこから出てくるか、それをこれからの私たちの共有財産とするためにヴィヴィッドに描いたつもりである。