職務をただ公正に進めていた行政マンは、なぜ命を狙われなければならなかったのか。
2001年10月、栃木県鹿沼市で起きた市職員殺害事件は、全国の自治体職員を震撼させた。前代未聞の「行政対象暴力」による殺人。被害者の遺体は見つからない。相次ぐ関係者の死。その謎だらけの事件の深層に迫ったのが、本書である。
ごみビジネスと暴力の世界の密な関係は、これまでもたびたび指摘されてきた。複雑に入り組んだ「政・官・業・暴」の利権構造が生んだと言える鹿沼事件は、どの地方都市でも起こり得る。取材班は、約1年にわたって栃木県内外で徹底した取材を続けた。8カ月間、全70回の長期連載「断たれた正義なぜ職員は殺された 鹿沼事件を追う」は、第4回石橋湛山記念早稲田ジャーナリズム大賞奨励賞を受賞した。
「私どものような家族の苦しみ、悲しみを二度と繰り返してはなりませんし、夫の犠牲が何らかの形で行政に生かされてほしいと願ってやみません」。
遺族が取材班に託した手記には、そう記されている。公務員、行政組織はどうあるべきか。すべての職員に突き付けられた重い課題を、本書は問いかけている。事件発生以来、専従または専従に近い体制で事件の深層と行政対象暴力の問題を追い続けている。社会部県警担当、政経部県政担当、地元・鹿沼支局の地域報道部など各部から中心となる5人の記者を集めてチームを組み、1年間にわたって長期連載を展開。全国での取材を継続するとともに、講演などで自治体にとって普遍的な行政対象暴力の問題点を訴えている。
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