{"product_id":"9784863850675","title":"ぼくは手紙を書く","description":"ぼくは手紙を書く\u003cbr\u003e\u003cbr\u003e名刺も手帳も財布も\u003cbr\u003e万年筆も本もノートも\u003cbr\u003eポケットの中に\u003cbr\u003eカバンの中にきちんとある\u003cbr\u003e\u003cbr\u003e鏡の前に立てば\u003cbr\u003e鏡の中にはぼくが立っている\u003cbr\u003e\u003cbr\u003eはち切れるほど膨らんでいたポケットは萎んでしまい\u003cbr\u003e手にあまるほど重かったカバンは軽くなって\u003cbr\u003eなによりもしなやかだった青年の筋肉は固くなり\u003cbr\u003eみずみずしかった少年の皮膚は乾燥し\u003cbr\u003e髪は白く\u003cbr\u003eそれなのに失くしたものがひとつもないなんて\u003cbr\u003e\u003cbr\u003eポケットを裏返しカバンをひっくり返せば\u003cbr\u003e手帳はあちこち痛み名刺はわずか数枚\u003cbr\u003e本は紙魚に汚れ財布は小銭ばかり\u003cbr\u003eノートの文字はぼやけて\u003cbr\u003e万年筆のインクも残り少ない\u003cbr\u003e\u003cbr\u003e鏡の隅まで指で磨けば\u003cbr\u003e鏡の奥にはぼくの抜け殻が蹲っている\u003cbr\u003e\u003cbr\u003eやはり多くのものを少しずつ失くしてきたのだ\u003cbr\u003eこれまでの道の峠や十字路に\u003cbr\u003e\u003cbr\u003eぼくは手紙を書く\u003cbr\u003e間欠泉の衝動に突き上げられて\u003cbr\u003e手帳のメモ\u003cbr\u003eノートの文字を頼りに\u003cbr\u003eインクの薄い万年筆で\u003cbr\u003e便箋が文字でびっしり埋まるまで\u003cbr\u003eぼくは手紙を書く\u003cbr\u003e鏡の奥に蹲っているぼくの抜け殻に宛てて\u003cbr\u003e\u003cbr\u003e朝になれば\u003cbr\u003e番地のない手紙は\u003cbr\u003e届けようもなく\u003cbr\u003e机の上に重ねられていくばかりである\u003cbr\u003eしかし手紙を書き終えれば\u003cbr\u003eぼくのポケットには希望が煌めき\u003cbr\u003eぼくのカバンには未来が灯って\u003cbr\u003e蹲っているぼくの抜け殻には新鮮な血が脈打ってくる\u003cbr\u003e\u003cbr\u003e今ではむしろ\u003cbr\u003e手紙を書くために\u003cbr\u003eここまで来\u003cbr\u003eここまで来るために\u003cbr\u003e多くのものを少しずつ失くしてきたように思えるのだ","brand":"書肆侃侃房","offers":[{"title":"Default Title","offer_id":48543151259952,"sku":"","price":2200.0,"currency_code":"JPY","in_stock":true}],"url":"https:\/\/www.maruzenjunkudo.co.jp\/products\/9784863850675","provider":"丸善ジュンク堂書店ネットストア","version":"1.0","type":"link"}