
知られざる名著|語学を深く楽しむ。語学担当者が選ぶ、学びの幅を広げる5冊
「知られざる名著」は、書店員がテーマに沿って厳選した、隠れた名著の魅力を探るインタビュー形式の連載企画。 今回のテーマは「語学書」。単にスキルを身につけるための書籍ではなく、言葉を通じて文化や歴史を知る楽しみが詰まった名著をピックアップしました。 次々と新たに世に出る書籍。いつもは手に取らないジャンルをはじめ、今まで知らなかった「名著」の魅力を再発見する、きっかけになるはずです。
Profile
Y・Kさん
ジュンク堂書店池袋本店で店舗スタッフとして勤務中。
2002年に入社して以降、語学書を担当。
好きなジャンルは外国文学、趣味は映画鑑賞。
担当者が語る、知られざる「語学書」の魅力とは
名著を紹介する前に、今回のテーマである語学書の魅力や選書の背景について、担当者のY・Kさんにお話を伺いました。
学ぶだけではない!言葉の根本を知る、語学書の奥深さ
ーーー今回は「語学書」分野から選書していただきましたが、どのような書籍がある分野なのでしょうか?
「語学書」と聞くと、英検やTOEICなどの試験対策本や実用的な英会話本を思い浮かべる方が多いかもしれませんが、それ以外にも幅広い書籍を扱っています。例えば、辞典や文法書、さらには今回ご紹介するような、その国の文化や背景を深く知ることができる読み物などです。
もちろん、英語以外にも中国語や韓国語、フランス語など、多言語に対応した書籍が数多く出版されています。
また、意外に思われるかもしれませんが、日本語教育に関連する書籍もこの分野に含まれます。海外から日本語を学びたい方や、その指導に携わる方々にとっても重要なジャンルです。
語学書は、言語のスキルを身につけるだけでなく、言語の背景にある文化や歴史、考え方に触れることで、視野を広げるきっかけを与えてくれる分野だと考えています。
ーーー語学書分野を担当されて20年以上ということですが、もともとこの分野に興味があったのでしょうか?
大学では「言語文化学科」に所属しており、一般的な文学部や、英米文学学科に近い部分もある学科だったので、そういう意味ではもともと言語に興味がありました。
当時は、日本語教育の授業の一環で、地域の外国人に日本語を教えるボランティア活動などもしていました。ジュンク堂書店での採用面接のとき、こういった大学での学びや経験について話したことから、語学書の担当に配属されたのかもしれません。
日々興味深い書籍と出会ったり、出版社の担当者と話したりと、入社当時と変わらず刺激のある毎日です。
ーーー改めて、今回の選書テーマを教えてください。
今回は、単なる実用的な語学書ではなく、方向性はさまざまですが、「言葉の根本的な部分を知る」ことができる書籍をテーマに選書しました。
語学書といえば、単語や表現集など実用的なものを想像しがちですが、その言語の背景や文化、成り立ちを理解することで、より深いコミュニケーションが可能になると考えています。
どの書籍も読み物として楽しめるだけでなく、言語への理解を深めるために役立つ内容で、スキルとしての語学だけでなく、その国や言葉への興味を広げてくれる書籍ばかり。「急がば回れ」の気持ちで、気になる1冊を手にとっていただけたらと思います。
担当者が選ぶ、おすすめの書籍5選
ここからは、担当者が選んだおすすめの名著5冊を紹介。
最もポピュラーな英語をはじめ、近年関心が高まっている韓国語、さらには日本語の奥深さを知ることができる書籍など、個性豊かなタイトルが揃いました。
単語に秘められた、歴史と文化をたどる
『英語の教養 英米の文化と背景がわかるビジュアル英語博物誌』(ベレ出版)
英単語に込められた文化や歴史を、ビジュアルで楽しむことのできる1冊。写真やイラストが豊富なため、語学学習者だけでなく英米の文化に興味がある方に、特におすすめです。
本書は、英単語を学ぶだけでなく、キリスト教や聖書など西洋文化の背景を解説してくれているのが最大の特徴。たとえば、靴の項目に「ゴム長靴」という記載があるのですが、イギリスでは「ウェリントンブーツ」と呼ばれているんです。これが、歴史上の人物に由来しているということなど、豆知識的なエピソードを楽しめます。
相手の文化背景を理解することは、ビジネスや雑談の場面でのコミュニケーションをより円滑にしてくれます。「教養」というタイトルに惹かれたビジネスパーソンにも支持されていて、発売から4年以上経った今でも、根強い人気を誇る1冊です。
39日間で基礎力を再構築!やり直し英語の“決定版”
『Jump‐Start! 英語は39日でうまくなる!』(Linkage Club)
英語初級者や学び直したいという方におすすめの、英会話ジャンルで特に需要の高い「やり直し英語」をテーマにした本書。今回紹介している書籍のうち、具体的な状況で使えるスキルの向上を目的としている実用的な書籍は、この1冊のみになります。
新書サイズで持ち運びやすいだけでなく、39日間で計画的に学べる構成なので、スキマ時間で続けやすいのが特徴。項目ごとの学習時間も記載されていて、進捗が分かりやすくなっているうえに、例文の暗記や日本語から英語への変換練習も盛り込まれています。中学レベルの文法を基礎から学び直しながら、自然とリスニング力や単語力などを総合的にバランスよく鍛えることができます。
一見シンプルな装丁の書籍ですが、英会話の基礎をしっかり身につけたい方から厚い信頼を集めており、実際に丸善ジュンク堂書店の各店舗での販売実績も高いロングセラーです。会話に必要な文法力などの基礎を重視した内容で、「痒いところに手が届く」実用性の高さが強みの1冊です。
日米の文化を“言葉”で知れる、読み物としても楽しめる辞典
『最新日米口語辞典[決定版]』(朝日出版社)
日米の文化や言葉の違いを深く理解できる「辞典」です。
日本語独特の表現を英訳するだけでなく、その背景や考え方まで解説しており、「逆鱗に触れる」などの慣用句が、豊富な例文と文法的説明とともに紹介されています。
2021年の復刊では、「二刀流」「上から目線」など、“今”使われている言葉300語を新たに収録。日常表現が英語でどう伝わるのか知りたい方におすすめです。
特にユニークな点は、辞典でありながら、雑学的な要素を含んでいるところ。たとえば「守銭奴」という言葉に1ページの半分を割き、チャールズ・ディケンズの『クリスマス・キャロル』の主人公に関連付けて解説するなど、英米文学の実例も豊富に含んだ内容になっています。
翻訳家や語学好きの間でも支持されており、「辞典」という枠を超えた学びを得られる1冊です。
韓国語学習の最初のステップを支える文法書
『実用韓国語文法 初級』(IBCパブリッシング)
初級者向けながら、実践的で丁寧な文法解説が特徴の韓国語テキスト。例文やイラストが豊富なので、独学でも取り組みやすく、韓国語学習の第一歩におすすめの1冊です。
最近はK-POPブームから、ライトな参考書が多く発売されている傾向にあります。そのなかでも本書は、より文法にしっかりと特化した、ステップアップしたい方向けの内容となっています。
本書は、韓国の出版社が発行していた教材を日本語に翻訳したもの。ネイティブ視点の例文の幅広さや細かいニュアンスの説明が好評で、特に「腰を据えて韓国語を学びたい」という方に選ばれることが多いです。
本書のような、初級から中級への橋渡しとなる文法書を充実させた結果、池袋本店では文法書の売上が大きく伸びました。さらに、本書の近くに韓国語版の書籍を並べてフェアのような形で展開したところ、原書の売れ行きも好調に推移しています。
特に人気が高いのは、日本でもお馴染みの「ドラえもん」や話題の小説「成瀬は天下を取りにいく」の韓国語版、そしてノーベル賞作家ハン・ガンさんの作品です。これらの書籍が手に取られるようになった背景には、本書によって韓国語学習者が「読める」レベルに達したことが大きく影響していると考えられます。
まさに本書は、学習者を次のステージへと導く、確かな実力を持つ1冊と言えるでしょう。
日本語の「そうだったんだ!」を発見する、話題の類語辞典
『漢字の使い分けときあかし辞典』(研究社)
本書は、一般的な漢和辞典とは異なり、一つひとつの言葉の使い分けに特化している点が特徴。「音読み」「訓読み」などの項目はありますが、よりマニアックな内容になっています。
たとえば「泣く」には、人間の悲しみを表す「泣く」と、動物が「鳴く」など、複数の表現がありますが、それぞれの違いや由来、使い方などが、例文や具体例を交えて解説されています。
日本語特有の表現を深掘りし、その違いや背景を丁寧に言語化した1冊です。ふだん何気なく使っている言葉にも新たな発見があり、言葉に敏感な方はもちろん、少しでも興味がある方なら夢中になれる内容です。SNSで話題になり、店頭での売れ行きも好調だったことから、その魅力が広く支持されていることがわかります。
「漢字の使い分けを楽しむ」「日本語の奥深さを知りたい」というニーズに応えてくれるこの1冊。言語が好きな方や表現を広げたい方はもちろん、日本語に触れたことのあるすべての人におすすめです。
いつもは手に取らない分野でも、読めばきっと新しい世界が広がるはず
今回は「言葉の根本的な部分を知る」をテーマに、Y・Kさんおすすめの5冊の語学書をご紹介しました。語学書のフロアを訪れる機会が少ない方でも「読む楽しみ」が味わえる、名著ばかりです。
語学書は、スキルを身につけるための実用書という印象が強いかもしれません。しかし、言葉の背景や文化、歴史に触れることで、単なる「学び」を超えた、新たな視点や感動が得られる分野でもあるのです。
次回も、現場で働く書店員が新たなテーマで書籍を紹介しますので、どうぞお楽しみに。