
2025-05-12
2024年ノーベル文学賞はハン・ガン!歴代&日本人受賞者も解説
2024年のノーベル文学賞は、韓国のハン・ガンさんが受賞し、大きな話題になりました。韓国人としては初の受賞ということで、どんな人?と気になる方も多いはず。本記事では、ハン・ガンさんの受賞理由や作品の魅力をはじめ、ノーベル文学賞の歴史や意義、これまでの歴代受賞者についてもわかりやすく解説します。
- ノーベル文学賞とは?「直木賞」や「芥川賞」との違いから、その特徴を紹介
- ノーベル文学賞 最新情報
- 日本人のノーベル文学賞 受賞者は2人。その特徴と代表作は?
- 海外のノーベル文学賞 これまでの受賞者の紹介と代表作
- 歴代のノーベル文学賞受賞者
- まとめ
ノーベル文学賞とは?「直木賞」や「芥川賞」との違いから、その特徴を紹介
ノーベル文学賞とは?定義と目的
ノーベル文学賞は、スウェーデンの化学者アルフレッド・ノーベルの遺言により始まった、世界最高峰の文学賞です。小説はもちろん、詩・演劇・ノンフィクション等、幅広いジャンルが対象で、毎年10月に受賞者が発表されるたびに世界の注目を集めます
「ノーベル賞」6つのうちの1つ
ノーベル賞には「物理学賞・化学賞・生理学・医学賞・文学賞・平和賞・経済学賞」の6部門があります。中には同じ部門や別部門で複数回受賞した例もあり、いずれの賞も国際的に非常に高い評価を受けています。
直木賞・芥川賞との違いは?
日本にも「直木賞」や「芥川賞」という有名な文学賞がありますが、これらは国内での公募・選考をベースに、比較的新人から中堅作家の小説を対象とするのが一般的です。一方のノーベル文学賞は、世界規模で最も貢献度が高いと認められた作家をスウェーデン・アカデミーが選出するため、受賞の影響が桁違いに大きいのが特徴。
ノーベル文学賞 受賞がもたらす影響
たとえば2024年にハン・ガンさん(韓国)が初受賞した際は、韓国文学全体が世界的に注目され、多くの作品が翻訳されるきっかけになりました。国内賞が国内の読者や出版市場に大きな影響を与えるのに対し、ノーベル文学賞は文字通り「世界が注目する賞」として、作家や国の文学そのものを一躍メジャーに押し上げる力を持っています。
ノーベル文学賞 最新情報
最新の受賞者は「ハン・ガン」!代表作のおすすめポイントを紹介
2024年のノーベル文学賞は、韓国のハン・ガンさんが受賞。人間の暴力性や記憶、喪失や再生といった深いテーマを、繊細で力強いタッチで描くことが特徴の作家です。
そんなハン・ガンさんの作品のうち、特におすすめしたい作品を3つ紹介。まだ読んだことがないという方も、この機会にぜひ手に取ってみてください。
タイトル | 初版発行 |
---|---|
少年が来る | 2014年5月 |
すべての、白いものたちの | 2018年12月 |
別れを告げない | 2024年3月 |
『少年が来る』
1980年の光州事件を背景に、犠牲となった少年と生き延びた人々の物語を「静かな声」で描いた作品。淡々とした筆致ながら胸を締めつけるような痛みが広がり、読み終えたあとも深い余韻に浸る「鎮魂の物語」です。
『すべての、白いものたちの』
生まれて間もなく亡くなった姉を想う「祈り」のような連作。白い紙や塩、産着…。「白」という色彩を軸に死と再生のイメージが浮かび上がります。詩的かつ美しい文章が特徴で、読み終わったあとも静かな祈りの感情が残ります。
『別れを告げない』
過去の惨劇の記憶に囚われた女性作家キョンハと、傷を抱えつつ母を看取った友人インソンの物語。歴史の痛みを丁寧に描く詩情豊かな筆致で、読後にはほのかな光が差し込むような余韻が心に宿ります。
ノーベル文学賞の候補者には、どんな名前が挙がるのか
ノーベル文学賞には、社会的メッセージが強い作家だけでなく、詩人や劇作家、ノンフィクションの書き手も多く候補に挙がります。
近年は世界各国で翻訳される機会が増えているため、多言語で読まれるようになった作家が最終選考に残るケースが増えているようです。
ノーベル文学賞 今後の受賞者予想や文学界の動向は?
ハン・ガンさんの受賞によって、アジア文学の注目度はさらに高まりそうです。今後はアフリカや中南米出身の作家も受賞する可能性が高いと予想されており、ノーベル文学賞はますます多文化・多様性の方向へ進むと言われています。
日本人のノーベル文学賞 受賞者は2人。その特徴と代表作は?
1901年に始まったノーベル文学賞ですが、日本人は1968年の川端康成さんと1994年の大江健三郎さんの2人のみ受賞しています。世界的に大きな注目を浴びた彼らの作風や代表作を見てみましょう。
川端康成
日本初のノーベル文学賞受賞者。美しい自然描写や人間の繊細な感情を、独特の感覚で表現するのが特長です。『雪国』冒頭の一節は、文学史上でも屈指の名フレーズとして知られています。
『眠れる美女』
老いと若さの対比をテーマに、欲望や喪失感を幻想的に描いた作品。静かに進むストーリーのなかに、どこか妖艶な空気が漂い、読み終えたあとの不思議な余韻が印象的です。
『みずうみ』
美しい女性の「目」を湖(みずうみ)になぞらえた、幻想的な小説。静かな雰囲気の中に、狂おしいまでの情念がにじみ出てきます。川端康成らしい、端正かつ妖しい文体が魅力的。
『川端康成集 片腕 文豪怪談傑作選』
収録作「片腕」は、川端作品の中でもとくにファンが多い短編です。異性の「片腕」を借りて帰るという幻想的な物語で、身体感覚や美意識の捉え方が独特。川端文学の新たな一面をのぞけます。
大江健三郎
社会問題や政治的テーマを寓話的に描く独自の作風で、海外からも高く評価された作家です。川端康成がノーベル文学賞を受賞した26年後に受賞し、「社会派」の日本文学として世界にその名を知らしめました。
『性的人間』
閉ざされた空間や特殊な性的指向を通じて、ユートピアを探求する大江文学の核心部を体感できる作品。思春期の葛藤や「自分だけの世界」を模索する感覚がリアルに描かれています。
『芽むしり仔撃ち』
太平洋戦争末期、山村に集団疎開した感化院の少年たちが、そこからの自由や希望を探る物語。コロナ禍における「分断」に注目が集まったときにも、改めて注目された1冊です。
『二百年の子供』
ファンタジーの要素が含まれる、大江作品のなかでは珍しい「長編」。子どもの目線から時間や歴史を描き出し、「未来」を感じさせる異色のタイトルです。
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海外のノーベル文学賞 これまでの受賞者の紹介と代表作
ここからは、日本人以外の受賞者を取り上げます。日系イギリス人作家カズオ・イシグロさんや、近年注目を集めた作家たちを一挙にご紹介します。
カズオ・イシグロ
日系イギリス人作家として、2017年にノーベル文学賞を受賞。静かな語り口で、記憶や真実の曖昧さを巧みに描きます。イギリスに渡った「移民視点」を作品に生かしており、日本的な感性と英国的な筆致が融合した独特の世界観が特長です。
『浮世の画家』
戦時中に戦争賛美の絵を描いた画家の物語。時代の空気に流される人間の怖さが静かに伝わってきますが、それ以上に社会全体の「手のひら返し」に背筋が寒くなる作品でもあります。
『忘れられた巨人』
霧に包まれた記憶を取り戻そうと旅をする老夫婦のファンタジー。意図的に封印された過去が明らかになるにつれ、憎しみや暴力の記憶が浮かび上がってくる重厚な物語です。
『クララとお日さま』
人型ロボット「AF」のクララと暮らす近未来小説。太陽を「命の源」のように思うクララの視点から、人間の曖昧で複雑な心情が浮かび上がります。AI時代における人間のあり方を考えさせられる1冊です。
ハン・ガン
2024年のノーベル文学賞を受賞した韓国人作家。光州事件や済州島事件といった「歴史の痛み」を取り上げながらも、詩的な筆致で人間の尊厳や希望を描きます。韓国文学史上初のノーベル賞受賞ということで、今後さらに注目が高まるでしょう。
『少年が来る』
韓国の民主化運動である光州事件を描いた小説。死者の声が生者の声と重なり合うようにして、暴力の根源を浮き彫りにします。読み進めるほどに胸が締めつけられ、読後にも深い余韻が残る作品です。
『すべての、白いものたちの』
白という色を軸に、失われた命や喪失感を淡々としたタッチで綴った連作のような構成。装丁にも凝られており、視覚的にも作品世界を味わえるのが魅力です。
『別れを告げない』
済州島事件をテーマに「知らない世代が過去の記憶をどう受け継ぐのか」を問う物語。過去の残酷な記憶が、現代を生きる人間の心にどう影響を与えるのかを、痛々しいほど丁寧に描いています。
その他の主要な海外受賞者
ここでは、近年(2015年以降)にノーベル文学賞を受賞した主な作家をピックアップします。いずれも地域やジャンルが異なり、ノーベル文学賞がいかに多様性を重視しているかが分かります。
スヴェトラーナ・アレクシエーヴィッチ(2015年受賞)
戦争や原発事故の「当事者」の声を集めるノンフィクション手法で注目を集めました。『戦争は女の顔をしていない』『チェルノブイリの祈り』等が代表作です。
オルガ・トカルチュク(2018年発表・2019年授賞)
ポーランドの女性作家。国境を超える想像力で、村社会を舞台に時代の移り変わりを描いた作品が高く評価されました。代表作には『逃亡派』『昼の家、夜の家』があります。
アブドゥルラザク・グルナ(2021年受賞)
タンザニア出身で、難民問題や植民地主義をテーマにした小説が高く評価されました。代表作『楽園』等が有名です。
ヨン・フォッセ(2023年受賞)
ノルウェー語の戯曲を数多く発表する劇作家。詩的で削ぎ落とした文体が特徴で、『朝と夕』等が代表作です。
ルイーズ・グリュック(2020年受賞)
アメリカの詩人。個人の感情を厳かな言葉で表現し、詩の力をあらためて世界に印象づけました。代表作に『アヴェルノ』があります。
過去には「ボブ・ディラン」もノーベル文学賞を受賞。「文学」の定義の奥深さを知れる事例
2016年にシンガーソングライターのボブ・ディランが受賞したことで、「ロックの歌詞は文学か?」という議論が大きく盛り上がりました。結果として、ノーベル文学賞が「ジャンルを超える懐の深さ」を示した代表的な例と言えるでしょう。
日本でノーベル文学賞の候補に上がる作者―村上春樹さん
世界中でベストセラーを連発している村上春樹さんは、ノーベル文学賞発表前になると必ず名前が挙がります。独特のイメージや比喩表現、ポップカルチャーを多用する文体が魅力ですが、長年「受賞間近」と予想されながら、いまだに受賞を逃し続けています。もし受賞すれば、日本人3人目の快挙になるだけに、毎年話題が尽きません。
歴代のノーベル文学賞受賞者
最後に、直近のノーベル文学賞受賞者の作風や受賞理由を振り返ります。2015年以降は地域や作風の多様性がとくに顕著で、国と言葉の境界をこえて人々を結びつける「世界文学」という、ノーベル文学賞の思想が現れています。
※『ボブ・ディラン全詩集』『ボブ・ディラン自伝』は現在当チェーンの店頭・ネットストアでお取り扱いできない書籍です。ご了承ください。
年度 | 受賞者(国) | 主な代表作 | 受賞理由 | 文学的・社会的背景 |
---|---|---|---|---|
2015年 | スベトラーナ・アレクシエーヴィッチ(ベラルーシ) | 『戦争は女の顔をしていない』『チェルノブイリの祈り』 | 多声的な作品によって現代社会の苦悩と勇気を描いた功績 | 旧ソ連圏市民の証言を掘り起こすノンフィクション文学が高評価。戦争や災害の記憶に光を当て、記録文学の価値を再認識させた。 |
2016年 | ボブ・ディラン(米国) | 『風に吹かれて』『ライク・ア・ローリング・ストーン』ほか楽曲 | アメリカ音楽の伝統の中で新たな詩的表現を生み出した功績 | ロック音楽の歌詞を文学として認める異例の受賞。大衆文化と高尚な文学の境界を拡張し世界的議論を呼んだ。 |
2017年 | カズオ・イシグロ(イギリス・日本出身) | 『日の名残り』『わたしを離さないで』 | 幻想的な感覚の中に深い人間性と記憶を描き出した功績 | 移民ルーツの作家としてグローバル社会におけるアイデンティティの問題を提示。日本と英国の文化を融合させた作品が注目された。 |
2018年(発表2019年) | オルガ・トカルチュク(ポーランド) | 『逃亡派』『昼の家 夜の家』 | 境界を超える想像力と博愛精神あふれる物語性が評価 | スウェーデン・アカデミーの不祥事による発表延期後に授賞。ポーランドの女性作家として、越境的テーマとジェンダー問題を作品に織り込む。 |
2019年 | ペーター・ハントケ(オーストリア) | 『ペナルティキックを受けるゴールキーパーの不安』等 | 言語的創意で人間の経験の周縁を探究した功績 | 旧ユーゴ紛争に絡む政治的発言で物議を醸す。文学的功績との分離が議論を呼び、ノーベル文学賞の政治性があらためて問われた。 |
2020年 | ルイーズ・グリュック(米国) | 『野生のアイリス』『アヴェルノ』等の詩集 | 厳粛な美しさと個の存在を普遍化する独特の詩的声が評価 | 詩人の受賞は近年でまれ。内省を深めるコロナ禍で静かながら普遍的メッセージを讃えられ、詩の力が再注目された。 |
2021年 | アブドゥルラザク・グルナ(タンザニア・英国在住) | 『楽園(Paradise)』 | 植民地主義の影響と難民の運命を深い共感で描いた功績 | タンザニア出身者初の受賞。欧米中心との批判が多かったノーベル文学賞において、多様性拡大を象徴する受賞例となった。 |
2022年 | アニー・エルノー(フランス) | 『場所』『シンプルな情熱』 | 個人の体験を通じて社会の抑圧と不平等を暴く鋭い視点が評価 | フランス人女性として初受賞。私小説的手法で女性や労働者階級の声を可視化し、ジェンダー平等や社会問題と文学の関係を浮き彫りにした。 |
2023年 | ヨン・フォッセ(ノルウェー) | 『だれか来る』『朝と夕』 | 言葉にできないものに声を与える革新的な戯曲が評価 | 演劇・戯曲のジャンルに脚光。ニーノシュク(新ノルウェー語)による執筆も注目され、言語マイノリティへの評価や多様化路線の一端となった。 |
2024年 | ハン・ガン(韓江・韓国) | 『菜食主義者』『少年が来る』 | 歴史のトラウマや人間の尊厳を強烈な詩的散文で描いた功績 | 韓国文学初のノーベル文学賞受賞者として大きな話題に。東アジアの歴史的傷痕を普遍的テーマに昇華し、多様性を広げる近年の傾向を決定づけた。 |
2010年代後半(2015〜2019年)の傾向
ノンフィクション作家やボブ・ディラン等、「文学の境界」を広げる受賞が相次いだ一方、2018年には不祥事が起き発表が翌年に延期される例も。政治と文学の関係について改めて議論が高まりました。
2020年代前半(2020〜2024年)の傾向
欧米以外の国や女性作家が続々と受賞。詩や演劇など「小説以外」の形式も高く評価されており、ノーベル文学賞はますます多文化・多様性を重視する流れにあります。
この潮流をみると、ノーベル文学賞は「いろいろな地域とジャンル」に目を向けていると言えます。世界が抱える課題を、言葉を使ってどう表現していくか――。それが今後も重要視されるでしょう。
まとめ
2024年ノーベル文学賞でハン・ガンさんが受賞し、韓国文学への関心が一気に高まりました。
これを見ても分かるように、ノーベル文学賞は受賞作家だけでなく、その国の文学全体への注目を集める大きなきっかけになります。
日本人としては、川端康成・大江健三郎に続く3人目がいつ誕生するのかと毎年期待されます。
村上春樹さんの名前が挙がることが多いですが、受賞を逃すたびに「来年こそは」と予想するファンも少なくありません。今後もノーベル文学賞は、多様性と文学性を兼ね備えた作家を評価し続けるはず。ぜひ、歴代の受賞作や気になる著者を手にとって、世界文学の奥深さを感じてみてください。