
2025-06-20
はじめての万年筆
~丸善と万年筆の歴史とともに~
明治時代に日本に輸入され、現在まで長く愛されてきた万年筆。特に丸善では、国内でもいち早く万年筆の輸入に力を入れ、100年以上の歴史があります。
丸善と万年筆の歴史を振り返りながら、初心者向けの万年筆の選び方をプロの販売員に聞いてみました。
※本記事に掲載されている商品の価格はすべて税込みです。
❏プロフィール(話し手・聞き手)
❏丸善と万年筆の歴史
❏A子、はじめての万年筆選び
プロフィール
話し手

宮原 義郎(みやはら よしお)
1990年丸善株式会社入社。日本橋店文具売場に配属。93年に高級筆記具担当となって以来約20年に亘り、万年筆を取扱う大型店舗で販売を経験。また店頭での販売経験を活かし営業本部にて約15年、万年筆や高級文具などのオリジナル商品の開発に携わる。
宝物は実母の名前が手彫りで施された形見のパーカー75シズレ スターリングシルバー万年筆。
聞き手

A子
2025年に丸善ジュンク堂書店入社。丸善ジュンク堂書店ネットストアの記事制作業務を行っている。文具に興味があり、休みの日には文具店巡りをするほど。
宮原さんの「私の一本」
アウロラ オプティマ万年筆グリーン
約30年前、日本橋店に勤務していた頃に出会い、一目惚れして購入した万年筆です。手が小さい私にも扱いやすい一本を探していたところ、ぴったりだったのがこの「オプティマ」でした。
まず気に入ったのは、14金のペン先(※1)と、ほどよく存在感のある軸の太さ。手にしっくりと馴染み、書いていて心地よい感覚があります。そしてアウロラ独自のリザーブタンク付きピストン吸入方式(※2)も大きな魅力でした。インク切れの際にも安心して使えます。
中でも特に惹かれたのが、「アウロロイド」というアウロラ独自の樹脂で作られた、美しく個性的な軸。ひとつとして同じものがなく、創業当時の社名が刻まれているのも特別感があり、持っているだけで気分が上がります。
この万年筆は比較的ペン先が厚めで、書き味は「やや硬め」。万年筆初心者で筆圧の弱かった私には、むしろボールペンに近い感覚で使いやすかったように思います。
2025年7月現在の価格は税込104,500円ですが、購入当時は税込36,050円。新入社員だった私にも手が届く価格で、思い切って購入したことを今でもよく覚えています。
さらに後になって知ったのが、「オプティマ」は1930年代のベストセラーの復刻モデルであるということ。クラシカルな雰囲気が好きな私には、まさに運命の一本でした。
※1 万年筆では、14金・18金・21金が用いられることが多い。
※2 アウロラ独自の吸入方式。筆記中にインクが切れても、尻軸を回してピストンを押し下げることで、リザーブタンクと呼ばれる予備タンクからインクが供給される仕組み。

アウロラ オプティマ万年筆
1992年宮原さん購入当時モデル
※この仕様のオプティマ万年筆は、現在お取り扱いしておりません
それでは、丸善と万年筆の100年以上にわたる歴史を振り返ってみましょう。
丸善と万年筆の歴史
明治17年
万年筆の輸入販売を開始
1889
明治2(1869)年創業の丸善が国内でいち早く輸入したのが、当時まだ国産品が無く、輸入に頼っていた最先端の筆記具「万年筆」でした。「万年筆」は当時、「スタイログラフィックペン(Stylographic pen)」と呼ばれており、軸先の針を紙につけると、軸先の周りからインキが流れるようなペンでした。はじめての輸入から11年後の明治28(1895)年、現在の万年筆ような「Fountain pen(泉のようにインクが流れるペン)」の輸入を開始しました。

旧丸善日本橋店社屋
丸善雄松堂(株)所蔵
明治45年
文豪とオノト万年筆
1912
『萬年筆の印象と図解カタログ』(丸善出版)には様々な文化人が万年筆の感想を書いています。中でも丸善『学鐙』編集長・内田魯庵から依頼を受けた夏目漱石は、オノト万年筆が「大変心持ちよくすらすら書けて愉快であった」と寄稿しています。

夏目漱石

『萬年筆の印象と図解カタログ』(丸善出版)
※現在丸善ジュンク堂書店系列店でのお取り扱いはございません
※限定商品に付き、完売の際はご容赦くださいませ。
オノトモデル ストリームライン セピア万年筆
丸善創業155周年を記念して、丸善にゆかりが深く、セピア色のインクを好んで使用した夏目漱石に因んでセピア色の軸をまとった万年筆を限定発売しました。
明治時代からオノト万年筆を輸入販売してきた丸善が、大正時代のモデルを復刻した「ストリームライン オノトモデル」をベースに製作し、筆記具としての風格を高めた特別な万年筆です。
大正6年
丸善アテナインキ発売
1917
自社製造インキとして丸善アテナインキを発売。現在販売している丸善アテナインキは当時のパッケージデザインやボトル形状を忠実に再現してご好評いただいております。

丸善インキと歴代の丸善アテナインキ
※現在はお取り扱いしておりません

現在販売中の丸善アテナインキ
(税込\3,850)
万年筆取扱店舗までお問い合わせください
大正14年
アテナ万年筆発売
1925
大正期には万年筆の国産化が盛んになります。丸善も自社工場で万年筆の国産化に成功します。
※限定商品に付き、完売の際はご容赦くださいませ。
アテナザペン
明治より輸入万年筆の需要が高まる中、丸善は低価格で品質の良い国産万年筆の製造に取り組みました。そして、試行錯誤を重ね完成したものが「アテナ万年筆」です。毛筆に慣れ親しんだ人達が当時の万年筆をどのように感じていたかを思い浮かべ、柔らかいタッチのペン先を搭載させました。
非売品のアテナインキ型ピンバッチが付属しています。
A子、はじめての万年筆選び
文具が好きな私・A子は、2025年に書籍と文具を取り扱う丸善ジュンク堂書店に入社しました。
丸善ジュンク堂書店では、一般文具だけでなく、万年筆やボールペンなどの高級筆記の取り扱いもしています。
店頭でガラスケースに展示されている万年筆の美しさと上品さに惹かれ、万年筆を買おうと決意しました。今回、はじめて万年筆を買う私が、選び方のポイントをプロの販売員に聞いてみました。
この記事を機に、ぜひ万年筆を手にとってみてはいかがでしょうか?
選び方のポイント
――万年筆を買おうと思っています。ただ、国内・海外問わずたくさんのブランドがあり、種類も豊富で選ぶのに悩んでいます。初心者が万年筆を選ぶときに、どのような基準で選ぶと良いですか?
万年筆は基本的に書くための「道具」です。そして毎日使っていただきたいもの。
つまり自分の手のサイズや筆圧に合っているか、万年筆の素材・重量感や重心も「自分の身体に合っているか」を先入観抜きで最優先にしていただきたいです。
軸の主な素材は「金属」と「樹脂」。風合いと重量感が全く異なります。 筆記具はある程度の重量感は必要ですが、携帯用であれば軽さも重要ポイント。 重心は筆記時に「後ろ」にあるとバランスが悪く疲れてきます。

――実際に自分の手で確かめることが一番なんですね。
また、弊社では限定品など一部の製品を除き「試し書き」が可能です。
ペン先にインクを浸す「つけペン」での試し書きで確かめてみてください。

――試し書きできるのはありがたいです。
試し書きをするなら、字を書くことをお勧めします。大体の方は◯や横棒を書かれますが、実はこれではよく把握できません。
書くときは、書き慣れたご自分の名前や住所が良いでしょう。
字を書くことで「線の太さ」「線の潰れ具合」などがわかります。
また、試し書きをする際に「永」の字をお勧めすることもあります。「永」には、書くときに「はね」「はらい」など、永字八法がすべて含まれているので、万年筆の使用感がよくわかると思います。
――同じ字でも、線の太さの違いが、見た目だけでなく使用感でも伝わってきました。この線の太さは、個人差があるものなのでしょうか?


線の太さはお客様の筆圧によっても変わります。
筆圧が強い方:力がかかっても壊れにくい硬めのもの
筆圧が弱い方:少しの力でも書くことができる柔らかめのもの
をお勧めします。
――万年筆の性質だけでなく、書き手の性質も関わってくるのであれば、試し書きはかなり重要ですね。納得できるまで、万年筆選びができそうです。
それと、意外と思われるかもしれませんが「どんなシーンで使うか」は重要です。
店頭には試筆用の紙を準備しておりますが、できれば普段ご利用になっている手帳やノートをお持ちになることをお勧めします。そうすると、どれくらいの大きさの文字を書くことが多いのかがわかり、字幅が適正かどうかが実感できます。
また紙質によっては万年筆用インクが滲むものがありますがその確認もできます。
――私は、小さめの手帳を使うことが多いです。移動先でメモや予定を書き込むことが多いので。
それでしたら、細い字幅をお勧めします。幅の狭い罫線ノートにもおすすめできます。
また、宛名書きやチェックなどのシーンでは太めの字幅をお勧めします。
万年筆選びのポイント
- 万年筆は「自分の身体に合っているか」「どんなシーンで使うか」を重視
- 丸善ジュンク堂書店系列店では試し書きが可能(※限定品など一部の製品を除く)
- 試し書きでは、自分の名前や住所・「永」字など、字を書くことで、より良い万年筆選びができる
- 普段使っている手帳やノートを持ってくることで、自分にとって最適な万年筆選びができる
丸善ジュンク堂書店で万年筆を購入する理由
――丸善ジュンク堂書店だけでなく文具店や百貨店でも取り扱いがある万年筆ですが、丸善ジュンク堂書店での万年筆の購入をおすすめする理由を教えて下さい。
1.丸善萬年筆友の会
弊社では店頭で入会対象商品(※1)をご購入の際に丸善萬年筆友の会への入会をご案内しております。
丸善萬年筆友の会にご入会後は、お支払い方法に関わらず対象商品(※2)を10%OFFにてご購入いただけます。ご入会時は割引対象外ですのでご了承ください。
弊社ネットストアにて対象商品をご購入の際にはご入会申し込みはがきと仮カードを同梱いたします。
お手数ですが必要事項をご記入の上、最寄りの万年筆取扱店にお持ちいただくか、大変恐縮ですが切手を貼付の上ご投函ください。ご投函後約2~3ヶ月後に本カードをご郵送いたします。本カード到着までは仮カードをご利用ください。対象店舗にて本カードと同様の割引サービスをさせていただきます。

丸善萬年筆友の会 会員証カード
※1 対象商品:丸善オリジナル万年筆/税込\33,000以上の輸入万年筆
※2 割引対象商品:丸善オリジナル筆記具・インクなどの消耗品、輸入筆記具全般(万年筆、ボールペン、シャープペン、多機能、筆記具、インクなどの消耗品)
一部対象外の商品がございますので詳細につきましては最寄りの万年筆取扱店にお問い合わせください。
2.試筆・修理
全国の万年筆取扱店では「試筆」が可能です。ご納得されるまでお選び下さい。
※一部、限定商品など試筆をお断りしている商品がございます。
また、丸善ジュンク堂書店ネットストア購入品についても「Myページ」から確認できる「ご注文・お申込み履歴」を提示いただければ、店頭購入時と同様の修理対応を受け付けいたします。
詳細につきましては全国の丸善ジュンク堂書店系列の万年筆取扱店へお問い合わせ下さいませ。
※弊社とお取引のないまたは現在存在しないメーカー製品などの場合、お断りすることがございますので、あらかじめご了承下さい。
3.オリジナルや限定商品のラインナップ
弊社では丸善オリジナル商品や、国内では丸善のみの販売といった限定商品を定期的に企画・販売しております。明治の創業以来、その時代ごとのニーズにお応えするという丸善スピリットを守り、付加価値のある商品の販売をしております。
万年筆だけでなく、オリジナルの万年筆箋など紙製品もお取り扱いしております。
オリジナル・限定商品一覧
※限定商品に付き、完売の際はご容赦くださいませ。
万年筆と100年以上歩み続けてきた丸善。復刻を通して、万年筆の歴史は更に紡がれています。
今回、万年筆の選び方や、丸善ジュンク堂書店で万年筆を購入する理由を伺い、丸善ジュンク堂書店は「理想の万年筆との出会える場所」だと思いました。とても丁寧に教えていただき、ありがとうございます。
この記事を読み、少しでも万年筆が気になったかたは、ぜひ店舗にも足を運んでみてください。
A子