本書は、語彙的結束性という概念について計量語彙論的な観点から分析を行った初めてのまとまった著作である。語彙的結束性は、文法的結束性と並んでテキストを成立させる性質のひとつであり、ハリデー&ハサンによって一九七〇年代に提唱された概念である。
しかし、同様の現象は永野賢『文章論詳説』における「主要語句の連鎖」に見られるように、国語教育や作文指導などで考察されてきたものである。一方で、計量語彙論を応用した研究として文章の構成を捉える研究も独立に行われてきた。本書は、これらの異なるアプローチを語彙的結束性という概念で融合させたものである。それを可能にしたのが多様なレジスター(言語変種)を含む『現代日本語書き言葉均衡コーパス』(BCCWJ)である。本書では、TTR(異なり語数の延べ語数に対する比)といった統計量や語彙の時系列的な分布を基にテキストの文体的特徴、文章構成、多義の出現傾向など多様な分析を行っている。