「山田くんのかたりを目を閉じて聞いていると、う〜ん、少年の頃を思い出すよ。
ベリーグッド!」
長嶋茂雄
僕にとって長嶋茂雄さんは特別な人、いや特別な存在でした。
長嶋茂雄という選手は、幼かった僕にも異次元の場所に立っているように感じられたのです。
これは僕だけに限ったことではありませんでした。
僕の父は阪神タイガースの野球を見るために人生を捧げてきたような人でしたから、
甲子園で試合がある時はもちろん球場へ足を運び、テレビで観戦する時は斎戒沐浴をし、膝を正して試合に臨むのです。
そんな父に連れられ、僕も甲子園へ通いました。しかし、不思議なことにあれだけ激しいヤジを飛ばす阪神ファンでさえも、長嶋さんにだけはヤジを飛ばしているのを見聞きしたことがないのです。
長嶋茂雄さんは特別な存在なんです。ある時、ふと思いました。長嶋茂雄さんの魅力って何なのだろう、と。
(「プロローグ」より抜粋)
臨場感あふれる口調でスポーツの名場面や生き様などをリアルに再現する、山田雅人氏のオリジナル話芸「かたり」。
漫談でもなく、講釈でもない「かたり」は、語りたい人に直接取材を申し込み、公認を得て物語を作り上げていく。
本書は、そんな山田氏が尊敬してやまない「ミスタージャイアンツ」長嶋茂雄氏の物語を作る際に
本人、幼なじみ、恩師、ライバルなどゆかりのある人々からの言葉をまとめた取材記である。
幼少期から現在に至るまでの足跡を丹念にたどる筆者を通して、ミスターの背中がはっきりと見えてくる一冊。