今から25 年くらい前(西暦2000 年前後),私はまだ大学院生として炎症性腸疾患(IBD)の基礎研究を行っていたが,当時は5‒ASA 製剤,ステロイド,免疫調節薬,栄養療法くらいしかなく,動物実験モデルなどを使って新規治療薬の可能性となるものをいろいろと探索していた時代であった.当時は免疫学教室にお邪魔して実験をしており,抄読会などを定期的に行っていたのだが,その頃に『動物実験でインテグリンという物質を制御することで腸炎が改善したらしい』とか,『p40 蛋白はIL‒12 だけに存在するわけではなく,新しく見つかったIL‒23 というサイトカインもp40 蛋白をサブユニットとしてもっているらしい』とか,『JAK 経路というものが腸炎の発症メカニズムに関わっているらしい』というような興味深いいくつかの論文が話題となっていた.当時はまだ,それらが実臨床で使われるようになるのかどうかもよくわかっていなかったが,蓋を開けてみれば現在ではそれらは実際にIBD 治療薬の重要なターゲットになっており,毎年のように新規薬剤が登場している.
治療薬だけではなく,IBD の診断や病勢評価についてもここ数年での進歩は大きい.たとえば,以前の画像診断はX 線透視や上部・下部内視鏡検査が主流であったが,バルーン内視鏡やカプセル内視鏡などの登場で小腸病変を内視鏡的に直接評価することが可能になり,またエコー,CT,MRIなどで腸管の全層性の炎症の評価を行うことも盛んに行われるようになってきた.内視鏡的活動性の評価方法も新しいものがいろいろと考案され,従来のものに代わって新規のものもグローバル治験で広く使用されるようになってきた.また,バイオマーカーも以前はCRP や赤沈に頼ることが多かったが,最近では便中カルプロテクチン,LRG,PGE‒MUM などの新規バイオマーカーが次々と臨床の場で使用できるようになってきている.このように現場の診療は大きな変革と躍進の時代を迎えているといえるが,薬剤治療選択にしても病勢の評価方法にしても選択肢がどんどん増えていくことで臨床医に迷いや混乱が生じつつあるといった感も否めない.
本特集では若い先生にも多く参加していただいて,独自の見解をなるべく多く述べていただき,執筆者の個性を存分に発揮していただくことで,より新鮮で切れ味のある内容になることを目指しており,読者の皆様が退屈することなく最後まで一気に読破できるような魅力的な内容になるように構成した.ご多忙のなかご執筆を快諾していただいた先生方に厚く御礼を申し上げるとともに,読者の皆様には明日からのIBD 診療にぜひ役立てていただき,本誌が一人でも多くのIBD 患者さんのためになることを祈念している.
杉本 健(浜松医科大学 内科学第一講座)