特集 選択肢の増えたAD治療薬(向井 秀樹 編集委員)
重症かつ難治性のアトピー性皮膚炎(atopic dermatitis:AD)患者に対する全身治療の進歩は目覚しく,従来使用されていたシクロスポリンに加えて,現在は4つの生物学的製剤および3つのJAK阻害薬が登場し,選択肢が大幅に増えた.これにより,費用対効果が不十分であれば治療薬を1つにこだわらず,変更することで寛解導入や寛解維持が可能な画期的な時代が到来している.長年苦しめられてきた重症のAD患者の人生を変えるブレイクスルー治療薬となっている.
巻頭では,「研究」欄でAD患者最大の悩みである痒みを制御するうえで知っておくべき“痒みを伝える皮膚感覚神経の多様性”について,岡田峰陽先生に解説いただいた.皮膚疾患に関してはいまだ未解決な部分もあり今後の研究に期待したい.痒みを制御するネモリズマブに関しては,内因性や痒疹例に加えて血清IgE中等度上昇例,皮膚アミロイドーシスや穿孔性皮膚症合併例などに有効であり,高齢者の難治性痒疹にも著効する.その副作用を含めた問題点を「治療1」で列挙した.茂木精一郎先生の「Topics」ではトラロキヌマブとデュピルマブ(Dup)を比較し,安全性の高さや長期使用により同等の治療効果が得られるという.萩野哲平先生の「治療2」ではウパダシチニブの問題点と指摘される長期有効性と安全性に関して,287例という多数の経験症例から検証している.
「臨床例」の各症例をみると,今回の特集テーマである選択肢の増えた治療法を駆使して,治療抵抗性症例の治療に役立てている.しかし,全身療法主体の時代といえども,皮膚科医の原点である適切かつ十分なステロイド外用療法は忘れてはいけない.血液透析患者にDupの有効性,Dup関連顔面紅斑にメトロニダゾールゲル外用薬やジファミラスト軟膏の有効性も興味深い.一方,副作用や投与時の留意点として,本邦初のネモリズマブによる慢性色素性紫斑型薬疹例やDup投与によりTh2型から逆説的反応としてTh1/17/22型に移行する乾癬様皮疹,バリシチニブ投与後に診断されたT細胞リンパ腫の例は高齢者への投与について警鐘を鳴らしている.
今回の特集号は日常診療に役立つものとなっている.ぜひとも興味あるものからご一読いただき,ご意見があれば「声」の欄に投稿いただきたい.