「いくら傑作でも人情を離れた芝居は無い」(『草枕』)と漱石自身が言ったように、「漱石の作品のすべてが人生を論じている」(出久根達郎『解説』より)。
『吾輩は猫である』で1905年に文壇に登場し、朝日新聞入社後は『三四郎』、『それから』、『門』などを発表、修善寺での大患を経て『こころ』、『道草』、『明暗』などの作品を亡くなる1916年までの10年間に次々に発表し、近代知識人の内面を描いたといわれる漱石。その漱石の屈指の読み手として知られる直木賞作家・出久根達郎氏が、小説以外の文章で漱石が人生をどのように捉え、いかように論じているかを全集の中から選んで編集したのが本書である。新聞、雑誌への寄稿文、講演、さらに妻・夏目鏡子や正岡子規などの友人、芥川龍之介などの門下生に宛てた真情溢れる書簡には、人生を凝視し、人生の意義を見いだすべく苦闘した漱石の知恵と信念とに満ちている。
「威張る勿れ、諂う勿れ、腕に覚えのなき者は、用心の為に六尺棒を携えたがり、借金のあるものは酒を勧めて債主を誤魔化す事を勉む、皆おのれに弱みがあればなり」(「愚見数則」)、「自分の立脚地から云うと感じのいい愉快の多い所へ行くよりも感じのわるい、愉快の少ない所に居ってあく迄喧嘩をして見たい。是は決してやせ我慢じゃない。それでなくては生甲斐のない様な心持ちがする。何の為に世の中に生れているかわからない気がする」(友人・狩野亨吉宛書簡)など、人間と人生を深く洞察した文豪ならではの警句と教訓に溢れる人生論集。
[本書の内容]
愚見数則
入社の辞
虚子著『鶏頭』序
太陽雑誌募集名家投票に就て
イズムの功過
私の個人主義
思い出す事など(抄)
ケーベル先生の告別
硝子戸の中(抄)
文学談
文士の生活
書簡(抄)
解 説(出久根達郎)