美しくおぞましい調べが生み出す、得も言われぬ酩酊感。目眩がするほど薄暗い欲動の数々に、私はただ圧倒されていた。
〈幻惑の三十一文字はひたひたと悪夢のようにあなたを侵す〉
――梨(ホラー作家)
「猟奇歌」には、笑いと戦慄がつきまとっている。
――寺山修司
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故郷・福岡で、のちに代表作となる幻魔怪奇探偵小説『ドグラ・マグラ』を執筆する合間――夢野久作が手帳に綴り、雑誌に発表した短歌連作「猟奇歌」。
発表以来、独自の言語感覚で静かに読者を魅了し続けてきたその本篇と、関連作品を初めてまとめた文庫オリジナル。
短歌史上、最も闇に満ちた一冊がここに。
〈巻末エッセイ〉寺山修司
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何故に
草の芽生えは光りを慕ひ
心の芽生えは闇を恋ふのか
わが胸に邪悪の森あり
時折りに
啄木鳥の来てたゝきやまずも
【目次】
猟奇歌
[巻末資料]
日記より
参考作品
ナンセンス(随筆)
夢野久作の死と猟奇歌(吸血夢想男)
「猟奇歌からくり」――夢野久作という疑問符(寺山修司)