近松門左衛門は承応二(西暦一六五三)年、越前吉江藩士の次男として福井に生まれた。少年時代に父が浪人したため家族とともに上京、公家方に雑掌として仕えた後、遅くとも延宝五(一六七七)年頃までには宇治加賀掾のもとで浄瑠璃作者としての修業を始めた。習作時代を経て貞享二(一六八五)年、『出世景清』により従来の浄瑠璃に新風を吹き込み、それ以降の浄瑠璃は、「古浄瑠璃」に対して「新浄瑠璃」と称されるようになる。元禄十六(一七〇三)年には曾根崎で起きた心中事件を浄瑠璃に持ち込み、世話物のジャンルを創始。その後は、町人社会の出来事に取材した世話物を多く手がけ、義理と人情の狭間に生きる庶民の姿を生き生きと愛情をもって描いた。本全集では、晩年の円熟期の作品を中心に『曾根崎心中』『鑓の権三重帷子』『心中天網島』『女殺油地獄』の世話物四作品を取り上げた。