滑稽旅行話の典型として多くの模倣作を生んだ『東海道中膝栗毛』は十返舎一九(明和二天保二[西暦一七六五一八三一]年)の手になる滑稽本で、発端、初編から八編までの一八冊からなる。初編の「浮世道中膝栗毛」は享和二(一八〇二)年に、八編の上中下が文化六(一八〇九)年、発端が実は一番遅く文化一一(一八一四)年に刊行されている。
栃面屋弥次郎兵衛と元旅役者の喜多八が伊勢参宮を思い立つことから始まる東海道の旅は行く先々で失敗や滑稽談を重ね、併せて街道筋や市中の風俗が描かれる。一九自身はこのような長編を予定していなかったが、あまりの好評に、この後も『続膝栗毛』初編一二編の二五冊を書きつぐことになり、二人が江戸に戻るのは二〇年後の文政五(一八二二)年、一二編の刊行時になる。