この10年の間に進展した新たな材料開発や計測技術により、従来の無機材料(セラミックス)に対する「硬い」「脆い」「均質である」といった常識は、徐々に見直されつつある。たとえば、分子アニオンを含有する無機結晶が示す優れた二次電池特性や、分子と無機固体との融合によって発現する革新的な触媒機能・電子物性等は、従来のセラミックスでは達成できなかった全く新しい機能の可能性を示している。
こうした背景を踏まえ、本書では著者らが提唱する新しい材料概念「超セラミックス(Supra-ceramics)」を紹介する。これは、分子ユニットを含む無機材料を、単なる複合体ではなく、機能設計の核として再解釈しようとする試みである。
本書はまず、「一般的なセラミックスとは何か?」という基本からスタートし、そこから超セラミックスの考え方へと展開していく。特に焦点となるのは、分子ユニットのもつ「異方性」、「解離性」、「軟らかさ」といった特性が、無機材料にどのような構造的・電子的変化をもたらすのかという点である。本書では、これらの特性を、超セラミックスにおける「物性・機能創出のコンセプト」として位置づけ、体系的に整理している。さらに実際の研究例を通じて、超セラミックスのタイプ別にどのような物性や機能が実現されるのかを具体的に紹介する。それらの事例は、単なる個別技術ではなく、根底にある共通の設計思想から理解できるものであり、研究開発や応用展開にも役立つ視点が得られる内容となっている。
化学や材料科学を専攻する大学生・大学院生はもちろん、新規機能材料の設計や応用に携わる研究者・技術者にとっても、有機・無機の境界を越えたセラミックスの最前線を知る手がかりとなる一冊である。