21世紀に入って、"ナノ"という接頭語のついた言葉が以前にも増して聞かれるようになった。工学分野では「ナノテクノロジー」が開花し、半導体やレーザー技術のナノ化、マイクロマシーンの創生などが活発化している。物理学や化学の分野では、理論や実験において「ナノフィジックス」「ナノケミストリー」が定着しつつある。
現代生命科学も、"分子・細胞"という共通言語を基礎に生物学の諸分野を統合・発展し、当然の帰結として、ナノテクノロジーを活用するようになった。ここに、「ナノバイオロジー」という分野が生まれたわけである。
ナノバイオロジーは基礎科学(生物学)である、というのが本書の立場である。ナノテクノロジーという方法論を用いて、ナノメートル、ミリナノ秒、ナノピコニュートンのレベルで生命現象の分子機構を解析する分野である。
ナノバイオロジーは、まだ体系づけられた分野にはなっていない。しかし、それだからこそ、未開拓の多くの領域を含む魅力的な分野である。本書では、この魅力をわかりやすく、かつ科学的正確さを保ちながら、特に、「ナノテクノロジーを応用すれば、如何に面白い生命科学が展開できるか」という視点から、わが国を代表する第一線の研究者の方々に自身の専門領域について解説していただいている。