本書は、私自身を実験台にした「デジタル読書」の実験をまとめたものである。
「サンプル数1の実験など意味がない」と考える人もいるかもしれない。ここでの報告は、あくまで私の個人的な体験談が中心だ。されど、私自身、目から鱗が何枚も落ちた体験談だったことを強調したい。
これまで私は、紙での読みとデジタル環境での読みとで、読みのパフォーマンス (読みのスピード、理解度、校正読みでのエラー検出率などの客観指標) がどのように異なるのかを比較する認知心理学的な実験を行ってきた。客観性を追求するために、実験室内で条件を統制した環境下での実験を繰り返してきた。しかし、本来、読書は日常に根差したものだ。紙とデジタルの比較を生業とする研究者として、自らの実体験にもとづく切実なメッセージを読者に届けたいと思った。
本書をまとめるにあたって、デジタル読書の体験から得た知見もまた実りあるものだった。読書環境として、紙とデジタル機器の良し悪しを知るだけでなく、デジタル読書にさまざまな利便性を感じた。特に、文字を拡大できること、夜でも書籍を購入してすぐに読み始められること、大量の本を持ち運んで複数の本を平行して読み進められることなどは、将来的にデジタル読書がより普及する可能性を感じさせるのに十分だった。しかし、デジタル端末で快適に読書するには、現在の端末のデザインに大幅な改善が必要だと感じたのも事実だ。
また、今回の実験から、本を読むという行為がいかなるものであるのかを私自身が再確認する機会となった。人はこれまでできていた当たり前のことができなくなって初めて、そのありがたみを感じるものなのだろう。
本書でのまとめは、あくまでも私自身の体験をまとめたものだが、電子書籍時代と言われるようになって久しい現代において、電子書籍の良さはもちろん、改めて紙の本の良さにも大いに気づきを与えてくれる内容となっていえる。