心大血管術後の急変対応・蘇生に特化したプロトコール“CALS(The Cardiac Surgery Advanced Life Support Course)”の初の日本語版テキストであり,2025年秋にスタートするCALSトレーニングコースの公式テキスト.原書翻訳に加え,日本の医療体制に即した注釈を豊富に収載.本テキストでCALSプロトコールを学ぶことにより,ハートチームとして心大血管術後患者の急変に自信をもって対応することができる.心大血管術後患者のアウトカム向上につながるテキストであり,働き方改革による他科医師・多職種へのタスクシェアといった日本が抱える医療課題の解決にも寄与する一冊.
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【書評】 本書の訳者の一人である植野剛先生は,かつて将来を嘱望された心臓血管外科医であった.諸般の事情により臨床の第一線を離れ,医療機器メーカーへと転身することとなったが,その直前,彼は“Cardiac Surgery Advanced Life Support(CALS)”の日本での普及に対し,並々ならぬ情熱を燃やしていた.「それほどの情熱があるならば,臨床医としてメスを握りながら取り組めばよいものを」と,その才能を惜しんだことは今でも鮮明に覚えている.
数年前,筆者は植野先生のこの熱意を形にすべく,日本胸部外科学会などの理事を務める何名かの先生方にCALS普及について打診したことがある.しかし,当時CALSの概念を正確に把握されていたのは,東京大学の小野稔先生だけであった.ほかの多くの重鎮の先生方は「CALS?」と首をかしげるばかりであった.なぜベテラン外科医にCALSは響かなかったのか.その後,本誌での連載や先駆的施設の取り組みにより,CALSの認知度は飛躍的に向上した.しかし筆者を含め,昭和~平成に修練を積んだ外科医たちが当初CALSにピンとこなかったのには,明確な理由がある.少なくとも筆者の勤務していた施設では,集中治療室(ICU)にはワイヤーカッターや開胸器が常備され,万が一の急変時には躊躇なくその場で開胸し,直接心臓マッサージを行う.それは「特別なイベント」ではなく,想定内の対応であった.心臓血管外科医であれば,術後の胸骨をAdvanced Cardiovascular Life Support(ACLS)のガイドラインどおりに圧迫すれば胸骨が離開し,縫合したばかりの心臓大血管を損傷することは,生理的な反射レベルで理解している.ペースメーカワイヤーを駆使し,除細動を行い,いよいよとなれば創部を開放して用手的に循環を維持する.これらはわれわれにとって,言語化するまでもない「常識」であり,暗黙知として共有されていたのである.
【序文】 心臓・胸部大動脈術後の患者が心停止に陥った際,現場の医療従事者が直面する課題は少なくありません.「胸骨圧迫を行っていいのだろうか?」,「次は何をすべきだろうか?」といった一瞬の迷いや戸惑いが,患者の救命率や社会復帰率を大きく左右します.こうした1分1秒を争う状況において,標準化されたプロトコールに基づく迅速な対応が不可欠であることは言うまでもありませんが,従来のACLS(Advanced Cardiovascular Life Support)では必ずしも十分ではないことは,ACLSの提唱母体である米国心臓協会(AHA)自身も認めています 1).この問題に対する解決策として,心臓・胸部大動脈術後の心停止への対応に特化したプロトコールとして提唱されたのが,CALS(Cardiac Surgery Advanced Life Support)です 2).