【書評】
「糖尿病治療の最新情報をこの一冊で」
本シリーズは,2004年版より3年ごとに定期刊行されてきた歴史ある専門書であり,その時々の臨床と研究の進歩を精緻にとらえ,医療現場に必要な知識を過不足なく届けてきた.糖尿病診療はこの20年で大きな変革を遂げ,薬物治療の多様化,合併症管理の高度化,個別化医療の進展など,診療体系そのものが質的に変貌しつつある.本シリーズは,そうした進化を的確に反映し,読者が確かなエビデンスと実践的知見を得られるよう構成されてきた.今版もまた,その伝統を堅持しながら,新時代の糖尿病診療を展望する新しい内容が随所に反映されている.
巻頭トピックスでは,最近の研究成果や将来を見据えた重要課題が10項目にわたり整理されている.「J—DOIT3から分かったこと」に始まり,「日本における糖尿病患者の死因と死亡時年齢」ではわが国における主要な臨床研究や疫学研究のデータが示され,「大規模言語モデル・生成AIと医療デジタルツインが切り拓く次世代精密医療」が取り上げられた点は,今版を象徴する先端的トピックスといえる.AIによる精密医療の可能性が具体的に語られているのは,近年の医療DXの流れを踏まえればきわめて意義深い.また,「1型糖尿病の発症予防や重症化予防を目指したステージ特異的臨床研究の現状」「GIP/GLP—1/グルカゴン受容体と標的とした薬剤の糖・脂質・エネルギー代謝改善作用」など,予防や治療の未来を切り拓くテーマが要領よくまとめられており,読者の理解を一段と深めてくれる.
今版全体には今日の糖尿病診療に求められる視点が多角的に盛り込まれている.たとえば,個別化医療の実現に向けた病態の理解の精密化,血糖管理と心血管・腎リスクの統合的マネジメント,そして治療選択肢の急速な拡大に伴う薬剤特性の再整理など,現場で直面する課題への指針が明瞭に記されている.GLP—1/GIP受容体作動薬の位置づけ,週1回インスリン製剤の特徴やその有用性と注意点,骨格筋インスリン作用と加齢の関係など,近年注目される領域の最新知見も豊富であり,糖尿病医療が向かう方向性がわかりやすく解説されている.
章立ては例年通り体系的で,第Ⅰ章「糖尿病治療の基本」から,食事・運動療法,薬物療法,インスリン治療,合併症管理へと続く構成は,初学者にも専門家にも使いやすい.また今版では,「1型糖尿病の新しい病期分類」や「糖尿病性腎症の新診断分類」が反映されており,ガイドラインとの連動性が強化されている点は,日常診療にそのまま活かせる実用性を高めている.さらに,移植・再生医療,糖尿病療養指導,ICTの活用,フットケア,予防,関連治療薬一覧など,臨床現場が必要とする領域を幅広く網羅する構成は,シリーズの大きな魅力である.
私自身も「2013—2015年版」から「2019—2021年版」まで編集に携わってきたが,このシリーズが果たしてきた役割の大きさは計り知れない.編者として項目を立て,専門家に執筆を依頼するかの検討過程は容易ではなかったが,各分野の第一人者が最新の知見を盛り込み,明快かつ実践的に解説してくださったことで,常に高い評価をいただく書となってきた.今版においても,執筆者の熱意と専門性が行間から濃密に伝わり,シリーズの質をさらに高めていることは間違いない.
本書は,糖尿病診療に携わるすべての医師にとって,日々の臨床判断を支える確かな道標となるだろう.急速な進歩を遂げつつある領域を,最新エビデンスに基づき,しかも臨床で使いやすい形にまとめ上げた本書の価値は非常に大きい.多くの糖尿病患者の診療において,本書が広く活用されることを強く願っている.
臨床雑誌内科137巻3月号(2026年3号)より転載
評者●門脇 孝(虎の門病院 院長)