【書評】
「臨床検査を理解するうえで欠かせない,進化を続ける一冊」
前版に引き続き「今日の臨床検査2025—2026」を手にとってみた.持ち運びにも耐えうるコンパクトさはこれまでと変わらないが,前版よりも少しズッシリした感じを受け,実際に比べてみると15頁ほど増えていた.目次をみてみると,「新生児マススクリーニング検査」と「心筋・心不全マーカー」の章が新しく追加されている.とくに前者の章に含まれる項目はすべて新しく追加されたものであり,脊髄性筋萎縮症などマススクリーニングが近年拡大された社会状況を反映したものであることがうかがえる.また,巻頭の「臨床検査 最近の動向」でも触れられているように,最近のゲノム医療の進歩に伴い,遺伝子検査のボリュームも増えている.このように医療を取り巻く状況に応じて常にアップデートされているのがこの本の強みであると思う.
私の専門領域である感染症検査についても,前版にはなかった,SARS—CoV—2/インフルエンザ/RSウイルスの同時核酸検出や,ジカウイルス,エムポックスなどの核酸同定検査などが新しく追加されている.後者の検査は保険収載はされていないが,国立感染症研究所から検査マニュアルなどが出されており,保健所などを通じて検査できることを(感染症医としてはもちろんであるが)臨床医として知っておくべき事項である.一方で,EBウイルス感染の古典的な検査であるPaul—Bunnel反応やDavidsohn吸収試験など,前版にあった検査が今回の項目からは消えている.EBウイルス感染症の検査はIgM—VCAなど特異的抗体検査が現在主流となり,私自身も学生時代にPaul—Bunnel反応など勉強したものの医師になってからほとんど検査を経験したことはなく,日進月歩で増加していく検査項目を限られたスペースでカバーしていくためにはリーズナブルであると考えられる.実際に,今回の第19版が609頁で,1987年に出された初版(530頁)からは80頁ほど増えているが,約40年間に大きく進歩した検査領域をこの程度の頁増で抑えられているのはむしろ驚きを感じる.
このようなアップデートもさることながら,この本の長所はやはり使いやすさだと思う.各検査項目において,最初に基準値,測定方法などが簡潔に記載され,その後に詳しい説明がなされているが,そのなかでも「判読のポイント」は実際に検査結果を判断して診療を行ううえで非常に有用である.また視覚的にわかりやすい図表が適宜挿入され理解の助けとなっている.加えて,冒頭の「臨床検査最近の動向」では現在のトピックについて,「主要病態の検査」では重要な疾患の診断のために必要な検査項目について,それぞれ簡潔かつわかりやすく書かれているのもありがたい.
本書は初版が発行されてから38年間,改訂第3版以降は2年ごとに改訂されているロングセラーである.私自身,学生の頃からお世話になっている書籍であるが,引き続き愛用したいと思う一冊である.
臨床雑誌内科136巻5号(2025年11月号)より転載
評者●堤 武也(東京大学大学院内科学専攻生体防御感染症学/感染症内科 教授)