暴力と和解と赦し、そしていのちの円環
ルワンダは、ナチスによるユダヤ人虐殺と比較されうるジェノサイドを経験したことで知られる。本書は、ジェノサイド後も政治的抑圧を受け続ける住民たちが、国際社会や政府から見捨てられながらも、いかに自分たちの力で回復してきたのかを、医療人類学の視点から詳細に分析したエスノグラフィ(民族誌)である。
草の根の住民たちにとって紛争による苦しみとは何であり、回復とは何を意味するのかを、世代を越境する「いのち」のあり方と「生きる」ことを分析的視点としながら掘り下げた。
また、本書は、非西洋社会における人間の心と精神、共同体のあり方をポストコロニアリズムの立場から見直す。紛争・災害時に用いられる「トラウマ」「PTSD」概念は、西洋における精神医学を基礎として発展してきた。
これらを非西洋社会、とくにアフリカの紛争地に持ち込んだとき、植民地化の歴史と文化の違いにより現地コミュニティとの摩擦が生じやすいことが知られている。
この問題を解決するため、紛争地における心の傷と回復についての理論を草の根の住民たちの語りと観察記録の分析にもとづき呈示する試み。