問いつづけなくてはならない、たとえ答えが出なくても。
当代随一の人気作家H・G・ウェルズが最新の科学的発見を取り入れて未来を描いた『解放された世界』は不評だった。だが、この小説から世界の破滅が現実になると確信した男がいた。その発見を軍備開発に使う危険性を物理学者仲間に、大統領に訴えるが、ついにアメリカは敵国より先にと原子爆弾開発「マンハッタン計画」を開始。開発された爆弾はやがて広島と長崎に落とされる。泰緬鉄道の建設労働の地獄を奇跡的に生き延び、移送された日本での苛酷な俘虜労役についていた作家の父は、ここでも生き延びた。そんな父と家族の来し方には、母国タスマニアの歴史があった。太古からの美しくも厳しい大自然のなか、そこに暮らしてきたのはどんな人々だったのか?
終末的未来の危機を描いたウェルズ、原爆開発の端緒を開いた物理学者レオ・シラード、泰緬鉄道から生還した父とその家族、流刑地だった母国とそこに住む人々の歴史を描くメモワール。多岐にわたる人々の物語を、深い洞察力と圧倒的手腕で縦横無尽に紡ぐ。『奥のほそ道』(ブッカー賞受賞)のタスマニア出身の作家による、ベイリー・ギフォード賞受賞作品。