フランシス・ハチスン、デイヴィッド・ヒューム、アダム・スミスといった個別の思想家の名に比して、彼らを総称するスコットランド哲学の知名度は低く、体系的な研究の歴史も浅い。しかしスコットランド哲学は啓蒙の時代から近代への移行期に不可欠な役割を果たしている。それがスコットランド啓蒙思想と呼ばれるものであるが、その根幹にあるのは道徳哲学である。
その理論的基礎を理解するために重要なポイントは次の三つ。まず、カント主義哲学のような厳格な理性主義とは対照的でスコットランド道徳哲学に特徴的な「感情主義(sentimentalism)」。次に自然神学と経験科学の融合としての「自然主義(naturalism)」。そして市民社会論における「歴史主義(historicism)」である。
これらは思想家たちが積み上げてきた倫理学や法(理)学においてどのような意味をもっているのだろうか。よりよい社会はいかにして実現可能になると、彼らは考えたのだろう。そうした模索が現代にもたらす意義とは何だろうか。
スコットランド哲学の最深部に読者を誘い、〈現在〉をともに考える論考。