令和元年10月12日に発生した、令和元年東日本台風(台風19号)により、川崎市市民ミュージアムの地階にある収蔵庫などが浸水し、施設及び収蔵品に甚大な被害が発生して5年が経過しました。被災直後に開始した収蔵品レスキュー活動は、全国の博物館及び美術館の関係者など外部支援団体に協力を得ながら、5年経った現在も連日行われています。その活動内容は、散乱した収蔵庫からの搬出ルートの整備、被災状況の把握に始まり、収蔵品の搬出、洗浄などの応急処置、保管場所の確保、関係者との連絡調整、損傷の記録、作業環境の整備など多岐に亘ります。収蔵品は9分野(歴史、民俗、考古、美術・文芸、グラフィック、写真、漫画、映画、映像)に亘ることに加え、約25万件の収蔵品が被災するなど、専門家からは史上最大の収蔵品被害と言われ、レスキューは難航し、さまざまな課題に対し試行錯誤を繰り返しながら作業は行われています。本書は、5年が経過した現時点での被災収蔵品のレスキュー活動や修復手法などをまとめたもので、分野によって異なる素材への対応など、この経験をさまざまな視点から検証し、今後の備えを考える一助となるものになっています。川崎市市民ミュージアムの甚大な被害の実情を知り、その修復に取り組む地道で気の遠くなるような作業の様子を知ることは、あらゆる災害に対する防災の第一歩として、美術関係者だけでなく一般の方々にも必要なことだと思います。気象災害だけでなく、必ず起こると言われている南海トラフ地震をも見据えた備えとして、本書から学べることはたくさんあります。