今年(1875年7月31日生まれ)、生誕150年を迎える柳田國男。柳田は民俗学者としてつとに知られている。だが、柳田は何のために、各地の風俗や慣習、民間説話、生活などの資料を集めたのだろうか。それは単純な収集癖というものではなく、日本が近代化していくなかで失っていった「伝統」という叡智への哀惜と、文化を保守することを忘れた社会への怒りによるものであった。しかし柳田は、後年になるほどその志を表面には表さなくなっていった。そこに秘められた思いは、読者が読み解かねばならない。一体、柳田は何を守ろうとし、何を変えようとしたのか。ひいては、日本とは何かという問い、及び、世界とどこで通じているのだろうか。本書では、柳田が残した主な8つの文章(遠野物語、石神問答、時代ト農政、大嘗祭に関する所感、明治大正史世相篇、日本の祭、先祖の話、海上の道)を読み解きながら、諸問題を考察する。