本書の筆者は、工場の製造現場など、実際にものを作っている職場のことを「ものづくり現場」と呼ぶ。そして本書は、そうした「ものづくり現場」からソフトウェアを発注する際の失敗を避けるため、知っておくべき最小限の知識をまとめたハンドブックである。
今多くのものづくり現場が、費用削減・納期短縮・生産性向上・品質向上・人材不足対策・技能伝承・環境負荷低減など、たくさんの問題に直面している。そしてそれらの問題を効果的に解決する手段として、「DX(ディジタル・トランスフォーメーション)」などと呼ばれるコンピュータ活用の取り組みが注目されている。それに伴ってものづくり現場からのソフトウェア開発の発注は急増し、製品検査・機器制御・業務省力化・状態監視・生産記録といった機能を持つオリジナルソフトウェアが多数発注されるようになった。
ところがものづくり現場からのソフトウェア発注には、その70~80%が失敗し、あるいは不満が残る形で終わっているという現実がある。ソフトウェア発注の失敗率は、「ものづくり現場から」に限らず、一般にも非常に高い(約50%にも達する)ことが知られている。しかしものづくり現場からのソフトウェア発注に限ると、その失敗率はさらにはね上がる。
なぜ失敗率が高止まりするのか。本書では、ものづくり現場向けのシステム開発を本業とする筆者がその原因をていねいに分析し、失敗を避けるための具体的な方法や考え方を解説・提言する。特に「ものづくり現場で必要とされるソフトウェアは、一般的な業務用ソフトウェアなどとは異なる特別な性質を持ち、その差異を考慮しないと失敗はなくせない」とする分析は一読に値する。ものづくり現場からのソフトウェア発注では、一般的なソフトウェア発注の指南書に書かれている方法が必ずしも適切でなく、場合によっては逆効果となるのである。
本書はソフトウェア発注実務のテキストとなるだけでなく、企業や組織でコンピュータ活用の戦略を立案する上でも、一度読んでおきたい一冊である。DXの入門書、あるいはソフトウェア開発者の考え方を知る読み物としてもおもしろい。