本書は、企業内部のコントロール・メカニズムがいかに有効に作用しているかを、得られる限りのデータを駆使して、検証することを目指す。コントロールに際して、経営者の行動を事後に評価する情報システムの力をどうしても借りなければならないが、本研究は、評価に際して会計情報がいかに重要な役割を果たしているかを明らかにしようとする。
本書の特徴は、会計学研究の有力なアプローチの一つとなりつつある実証的会計研究に依拠したことである。すなわち、過去の実証研究をレビューしながら、仮説を設定し、仮説と現実のデータとを突き合わせて統計的に分析を行う。ここでは、動かぬ証拠を求めて、何よりも経験的な証拠を蓄積していく作業が重きをなす。その際に、得られるデータに限りがあるとしても、不透明な部分にあらゆる角度からメスを入れていき、事実とデータを突き合わせることを通して一つでも多くの実証的解答を求めていくことが望ましい。本書は、この問題意識に立脚して、主に1980年代半ばから1990年代末までのデータを利用して分析を行った。
本書の構成は次の通りである。
第1章ではエージェンシー理論の骨子を述べる。
第2章ならびに第3章では経営者報酬契約の基本的機能を考察する。
続く第4章から第10章は、現実のデータにもとづいて、利害調整の場で会計情報がどのように役に立つかを実証的に検証することに当てた。
日本企業の内部コントロール・メカニズムは、試行錯誤を繰り返しながらも、意外に有効に機能しており、会計情報が少なくとも部分的にそのメカニズムにかかわっていることは明らかである。今後導入されるガバナンスの仕組みによって、経営者行動のコントロールが一層強化されるかどうか、また、近年取り組まれている会計制度改革後の会計情報がなお経営者コントロールの機能を発揮し続けるか否かは、今後に残された課題である。