どう昔の書物と向き合うのか。
その実践と方法をあますところなく伝える書。
小城鍋島文庫(おぎなべしまぶんこ)研究会が結成され十二年。文庫の悉皆調査を行ってきたメンバーたちは、どのように蔵書を見てきたのか。
メンバーが文庫調査で出会った書物と向き合って、書物の語る声に耳を傾け、文庫の本をかたる書。
小城鍋島文庫とは肥前小城藩の藩主家と藩校の蔵書であり、現在、佐賀大学附属図書館に蔵される。本書はこの世界を語り尽くす。
第Ⅰ部には、小城鍋島文庫の基礎を築いた二代藩主直能に関する文章を収録。第Ⅱ部は、文庫を形作った直嵩・直愈兄第が催した藩主家の文芸サロンとその周辺のことに関する文章を収録。小城歌壇または小城文壇と称すべきものがこの時期に形成されていたことが窺えるものだ。第Ⅲ部は、文庫の蔵書のひとつである『和学知辺草』に関する文章を。第Ⅳ部には、文庫を構成するユニークな面々にスポットライトをあてる。文庫の蔵書の「モノ」としての側面に重きを置き、その個性をクローズアップさせている。第Ⅴ部は逆に、和漢・雅俗の多彩な蔵書の「作品」としての側面と「享受」に重きを置き、文学史のなかで読み解いてある。
幅広い読者層を想定して作り、古典籍からの引用には現代語訳や大意を付すなど、初学者への配慮も行き届いた書。蔵書印をカラーで掲載するほか、重要情報満載でお届けする。執筆は、中尾 友香梨、白石 良夫、進藤 康子、大久保 順子、土屋 育子、中尾 健一郎、日高 愛子、村上 義明、二宮 愛理、脇山 真衣。
【書物は、「モノ」としての側面と「作品」としての側面を持ち合わせている。古典籍においては、この二つの側面のいずれもが、重要な情報である。しかし書物の価値は、この二つの側面だけで決まるものではない。もうひとつ重要な要素は「享受」である。書物を正しく理解するためには、この三者のいずれにも気を配る必要がある。それが、表現を変えれば、書物と向き合って、書物の語る声に耳を傾けるということになろう。書物は自ら多くを語ってくれる。われわれがその声に耳を傾ける用意さえできていれば。】「まえがき」より