人間はひとりで生きられないように、脳も一つだけ独立して存在しているわけではない。自分の脳は、他人の脳の影響を受け
るし、また影響を与える。そうした相互関連のなかで、脳は脳としての機能を発揮する。今、脳研究は新たな段階に入りつつ
ある。独立した単体と見るのではなく、社会との関係の中で脳を捉え直そうというのだ。脳は社会とどう向き合っているのか。
脳は、社会をどうみているのか。あるいは、社会というコンテクストの中で、脳は、どういう振る舞い方をしているのか。
つまり、脳の社会性が脳科学のテーマとして浮上してきたのである。そうした社会的な問題と向き合う脳のはたらき・仕組み
を、脳科学は「社会脳」と呼ぶ。
始まったばかりのこの新しい脳科学へのアプローチを、昨今の人文科学の用語にならって、「脳科学の人間学的転回」と呼ぼう。
今号は、脳科学の人間学的転回、「社会脳」を取り上げる。