「詩人であれたらどれほどよかったことか! だがせめて、絵画でつくり出すのだ」
文学に焦がれたドラクロワが、ダンテやシェークスピアを絵画化することで絵画独自の快楽を見出し、みずからの様式を発展させていった過程を同時代の文脈から考察する。
[目次]
はじめに
第一部 一九世紀中盤のフランスにおける文学と絵画をめぐる環境とドラクロワ
1 「物語画」と文学
1 歴史画・物語画の伝統/2 近い時代の文学作品の絵画化/3 十九世紀半ばのフランスにおける諸芸術の交流と新たなジャンル
2 ドラクロワの画業の概要と本書の課題
1 二つのドラクロワ像/2 《地獄のダンテとウェルギリウス》の戦略/3 本書の考察対象
第二部 着火する文学―多様な着想源からの直接的な制作
3 物語と「挿絵」―ゲーテ作『ファウスト第一部』に基づくリトグラフ連作
1 作者の想像力を凌駕するイメージ/2 ゲーテの『ファウスト第一部』と造形作品の伝統/3 舞台と文学/4 リトグラフ技法の効果としての《ファウスト》連作/5 「挿絵」の位置づけ
4 現実と絵画―バイロン作『ジャウール』より二点の「ジャウールとハッサンの闘い」
1 先行作例と問題の所在/2 着想の経緯/3 文学と現実/4 一八二六年の《ジャウールとハッサンの闘い》―槌鉾とフスタネラ/5 一八三五年の《ジャウールとハッサンの闘い》―経験の力/6 「再現」の先へ
第三部 触媒となる文学―他ジャンル芸術との競合と絵画の可能性
5 演劇と絵画―シェークスピア作『ハムレット』より複数の「墓地のハムレットとホレーシオ」
1 シェークスピアは偉大な詩人か悪趣味の極みか/2 場面と造形作例の確認/3 一八二八年のリトグラフ―本場の公演への熱狂/4 シュテーデル作品(一八三五年)―思惟するハムレット/5 ルーヴル作品(一八三九年)―物語る瞬間/6 絵画の力
6 歴史と絵画―《トラヤヌス帝の正義》と《十字軍のコンスタンティノープル攻略》
1 同主題の再制作と同構図の反復/2 《十字軍のコンスタンティノープル攻略》と第四回十字軍の概要/3 「十字軍の間」と一八三〇年代後半のサロンにおける「歴史画」/4 歴史記述から絵画へ/5 《トラヤヌス帝の正義》から《十字軍のコンスタンティノープル攻略》へ/6 受難の都市/7 学識と想像力から新たな「一瞬」の力へ
第四部 文学から絵画へ
7 小説をもとに「詩」的な絵画を―スコット作『アイヴァンホー』より二点の「レベッカの略奪」
1 一八五九年、生涯最後のサロンにて/2 十九世紀中盤のフランスにおけるウォルター・スコット/3 一八二〇年代の『アイヴァンホー』/4 小説批判と絵画―『日記』と作品は矛盾するのか/5 「物言うヒエログリフ」による一八五八年の《レベッカの略奪》/6 「詩人」画家
おわりに――反復と再制作
註/参考文献/人名索引/英文目次・要旨/図版出典