こころに広がる、深く、豊かな、言葉の森。
『照らし出すものたち 這子編― 一つの認知システム』(せせらぎ出版、2021年)の続編。
言葉の森を彷徨う。
この彷徨は二〇一五年六月四日の未明むりやり起こされたことから始まった。誰にって? 相棒である老齢猫ワトソンである。這子のそばに影のように存在しだしてから十四年、這子も六十七歳、老這子となっていた。時刻は確か午前の二時過ぎだったような、その起こし方はいつもより執拗で、すっかり目覚めさせられたあと、二階に導かれた。
不可思議な力と光が部屋全体に満ちていた
西の空に丸いものが煌煌と浮いていた
満月である
満月の重力がワトソンを突き動かした
原動力なのかそれともワトソンのきまぐれだったのか
どちらにしても
老這子の立場からすれば
意識的に彼から起こされたということになる
では彼を突きうごかした意識とは
誰のあるいは何の意識なのか
この意識を説明する言葉がみつからない
言葉が見つからないぶん
意識は強く意識される
強く生起するもの
おそらく
存在という愉快なもの
おそらく
存在という異なもの
おそらく
存在というやっかいなもの…
これらすべてひっくるめて
おそらく
存在という化けなもの
このばけものを探しに言葉の森に入る
ときに言葉の嘘にまどわされ
やがて、出口も入口も失い
やがて、彷徨しはじめる。
その未明から十か月後、「照らし出すものたち(206ページ)」に書いたように、ワトソンに再び二階に導かれた。逝ってしまう前夜のことである。 ―「言葉の森(精神の自動的な働き/生起するもの)」より