『ハーブティーを飲みながら』(2014年刊)『ハーブティーをもう一杯』(2015年刊)の二冊を出版して九年。
八十六歳の著者が日々を軽やかな筆致で生き生きと紡ぎだす、第三作目のエッセイ集。
ふと夜中に思いが浮かんだ。そうだ一年間カナダに留学してみたい。今の体調だと一年なら行けるかも! カナダは一か月だけ留学の真似事のような体験をしたことがある。その時一度立ち寄ったブリティシュ・コロンビア大学がいいな!
翌朝目覚めて我に返った。なんという途方もないことを考えたのだ。お前は何歳だと思っている? 出来るはずがないよ。
テレビでチェロの響きに触れ、突然チェロを習いたいなあ、フランス語も習いたい! 私は時々とんでもない妄想にかられる。
雑誌をパラパラ見ている時、テレビをぼんやり見ている時、街を歩いている時、キュンキュン感動して胸が熱くなる時がある。わあ、あんな絵を描きたい! あんな陶芸作品を作ってみたい! あの言葉いい! メモしなくては! なんてうつくしい若葉だ! 電車に乗っていても、うわあ、あの若い彼、カッコいい! 旅先で見つけた湧き水の美しさも忘れられない。何処からか聴こえる鳥の声、ピアノの調べ、音楽みたいなイタリア語のリズム、なんでもすぐに感動してしまう。―
― 歳を重ね、心身ともに衰えていくのは仕方ないことだが、長年蓄えてきた知力、経験、老人力がある。これからも何にでも挑む活力をなくさずに、闊達に生きていきたい。三杯目のハーブティーを飲みながら心豊かに過ごしたいと願っているこの頃である。(「感動をいつまでも」より)