空飛ぶ精神科医は、これから何処へ向かうのか
私の傍にいる、姿は見せず、声も出さず、だけどはっきり私に語りかけてくる一羽の鳥。話しかけると答えが返り、会話もできるそれは、多分、十年前に急性脳溢血であの世に去ってしまった彼女。中学時代からの同級生で、結納まで交わしながら結婚式の二週間前に取りやめてしまった彼女。その声に囁かれ、対話しながら、私は導かれていく。精神科医として、これまで歩んできた記憶の中に。全国をリュックひとつで駆け回っている 引き籠り治療(往診家族療法)の精神科医。この白髪の爺を見つけて囀りかけてくる。ふざけ顔、脅し顔、呆れ顔、茶化し顔。最後には、きりり、励ましの力強い声をいっぱいに広げて ゆったりと羽ばたいて大空の中に消えていく。
本書は、従来の精神科病院とは異なる、患者を一人の人間として治療するための新しい試みとして「自立支援アパート」を提唱する著者が、全体主義にたった一人で反論した若き日から医師会をはじめ色々と「はみ出して」きた日々を、様々な出会いや葛藤の道のりの中で振り返る。『自立支援アパートと往診家族療法』と対をなす自伝的エッセイ。