著者の一人、新谷祐弘は、川崎重工業を60歳前に早期退職し、もともと志のあった日本文学を学びたいと、カルチャーセンターなどで日本の古典を学習した。「万葉集」、「奥の細道」などを経て、「源氏物語」を数年かけて読み込み、独自の視点から作成した図・表は後続の学習者の参考になるであろう。
また、淀の生まれであったため、与謝蕪村が淀で詠んだ句への綿密な調査により、従来の著名な研究者を上回る考察となっている。たとえば、「花火せよ淀の御茶屋の夕月夜」での「淀」が淀君か、淀城かの考察など、生まれ故郷ならではの好例となっている。
「鴎外遺言考」は、新谷祐弘の文学学習の集大成と考えられる。資料をもとに、鴎外の生まれ育ちから、陸軍軍医総監にまで上り詰める出世の道筋と家庭問題、病気「かっけ」をめぐっての海軍軍医総監高木との相克、一方で、文学者としての華々しい作品発表の数々を丹念な筆致で描く。鴎外の人間像に迫る大作である。