「百幹は葉に別れ告げ冬支度」―この句から始まった戸田幸四郎さんの俳句の旅は、いま「百幹の影絵遊びや残る雪」に至る。風土と歳月とともに、融通無碍の境地を得たひとりの俳人の、これは美しいクロニクルである。 五十嵐秀彦(現代俳句協会評議員)
定年退職後、第二の人生の趣味として句作を始めた著者。以来、四半世紀にわたり続み続けた句を、初めてまとめたのが本書である。北海道の風土に向き合う「風土詠を中心に、虚心に自然と向かい合う姿勢と、そこに無理なく主観をにじませる」句には、「全篇を通して、少年期を過ごした羊蹄山麓への懐郷の情が一本の太い綱を綯うように繋がれてゆく」。「融通無碍、まさに自由自在な詩境がここにある」(五十嵐秀彦「序文」より)。
*自選十句
石狩の野に吹く風や蕨摘む
嫁ぐ子と同じ齢の雛かな
草餅や手に柔らかき母の色
天涯へ声を合はせて帰雁かな
観劇を出てモスクワの白夜かな
羊蹄山の懐に入り清水汲む
百幹は葉に別れ告げ冬支度
漱石と会ひたる思ひ山すみれ
幾たびも吉井の歌碑やリラ祭り
南仏の空にゴッホの愁思かな