①今回、第4回配本として刊行する『AN AINU―ENGLISH―JAPANESE DICTIONARY』、及び〔補遺〕『APPENDIX TO THE THIRD EDITION OF DR. BATCHE LOR'S AINU DICTIONARY. 1932.』、『博物辭典』、『明治屋食品辭典』(全3冊)は、いずれも日本における言語文化研究にとっては貴重な資料である。それはアイヌ語継承者が少なくなっていく現実、年々、凄まじい速度で地球規模の自然破壊が進行していく現実、絶滅したり、絶滅危惧種が増えて行く現実、ますます「食」文化に関心がもたれるなか、食品に関する安全面の問題として、化学肥料や環境汚染の問題が懸念される現実などを考えれば、充分に理解の及ぶところである。
②「アイヌ語―日本語」(辞典)研究の古典である、ジョン・バチェラー著の『AN AINU―ENGLISH―JAPANESE DICTIONARY』は、初版が1889(明治22)年に刊行されたのだが、語彙数からみて、今回復刻した「増補改訂第3版」のほうが研究に資すると考えて、この版を復刻した。「アイヌ語―日本語―英語」辞典であり、正確性、訂正などを含めて、現代のアイヌ語研究には必須の資料である。アイヌ語の文法の解説もあり、1926年(大正時代末)現在で立項語彙数は約17500語である。この辞典の刊行後(1932年)に語彙数全九〇七語を追加した「補遺」版が出たのでこの資料も復刻した。
③21世紀になって、最新の博物辞典が刊行されているが、今回復刻の『博物辭典』は、日中戦争中の1938(昭和13)年発行であり、現代とは八六年の期間がある。この間、とくに戦後以降の科学の発達(遺伝子研究、遺跡、化石などの発掘、望遠鏡、電子顕微鏡の進化など)は目覚ましく、戦時中の『博物辭典』は書き直し、訂正しなければならない事項は多いのだが、博物研究史としては、今回復刻のこの辞典は貴重な資料となる。とくに、最新の博物辞典に立項されなかった事項などは、歴史の資料として、また過去にあった「言葉」、「もの」として記録しておきたいので復刻した。
④古代ローマの書物などをはじめとして、いつの時代も人間の「食」への関心は高い。今回復刻の戦時下で発行された全三巻にわたる『明治屋食品辭典』は、収録語彙数が全375語で、食品と飲み物の辞典として出版された。日本は勿論、世界の「食」の文献を踏まえたり、食品の発生、食品名の語源などをたずねたり、世界各国の食品名を紹介したりと学術的な特色もある。主な食材の他、料理名、調味料、オイル、缶詰、菓子、嗜好品(珈琲、ジュースなど)にも言及し、世界の各種のアルコール類(酒)の解説に特色を出している。