この本は、中国と日本の戦争を中国語で描いた詩や小説、エッセイを収めた翻訳集です。中国と日本の戦争といっても、中国の人びとにとって、戦争とは行くものではなく来てしまうものでした。作品の中でも「なぜ日本人は来るのだろう」という問いがしばしば発せられます。それは、日中戦争が日本軍による一方的な中国への侵攻だったからです。日本人である私にとって、自分が生まれる前のことであろうとも、日本による侵略を描いた文学を読むことは、自分自身が責められているようなつらさがあります。自分を加害者側に据えて身構えてしまいます。けれども、語り手の思いに寄り添い読み進めるうちに、いつしか心の鎧が外れていきました。文学は、自分の固定化された感覚からしばし離れて世界を見る力を与えてくれます。小さな翻訳集ですが、中国の側から戦争を語る声に耳をかたむけ、そこから心のなかに時空を超えた対話が生まれるよう、願っております。(本書「読者の方へ」より抜粋)