本書は、中国蘇州の拙政園と留園、台湾の林家花園という三つの庭園を取り上げて、それぞれの歴史や関わった人々について記述していき、その途中で浮かび上がってきた様々なテーマについて随時説明を加えるという体裁を取り、中国全土に無数にある庭園を網羅的に紹介する形は取らない。そのような本は旅行ガイドや過去に出た本を参照してもらえば事足りるし、私も全ての庭園を見て回ったわけではないからである。さらに言えば、そのような本に書かれてある漠然とした説明を読んでも中国庭園の醍醐味はちっとも味わえないとも思うからである。庭が今あるような姿になるまでにはいくつものドラマがあった。何より庭は不変のものではない。まずは持ち主によって次々と姿を変える。また庭園は歴史のうねりに常に翻弄されるものでもある。時に分割され、時にうち捨てられ、再建されたかと思うと、また荒廃する。それはまるで大きな生き物が死と再生を繰り返すかのようである。その生き様を活写することによって庭園がより身近なものに感じられると考える。