【序文】
「原因不明の意識障害」「治療に反応しないショック」.内科医の皆様が日常的に直面するこれらの問題には,もしかしたら『中毒』という答えが隠されているかもしれない.典型的な摂取歴や特徴的な臨床症候から原因物質を明確に同定できる場合もあるが,実臨床では原因が不明のまま急性の全身状態変化として発症することも少なくない.意識障害,呼吸不全,循環動態の破綻,代謝異常など説明困難な症候の背後に中毒が潜んでいることも多く,初期段階でこれらを念頭に置くことが診療上きわめて重要となる.
診断に至る契機としては,発症の急激さ,症状の多彩さ,通常の鑑別疾患では説明できない病態などがあげられる.こうした場面で「何か中毒性の要因があるのではないか」と直感できるかどうかが,その後の対応を大きく左右する.初期評価では病歴聴取,身体診察,ベッドサイドでの簡便な検査を基盤に,全身管理と並行して中毒の可能性を迅速に検討していくことが重要である.
しかし,すでに内科医は不明熱,ショック,急性呼吸不全といった「原因不明の急性病態」に日常的に直面しており,その診断過程では治療介入と並行して鑑別診断を進めていると思う.急性中毒も同様に,確定診断が得られるまで支持療法を優先しつつ,病態に応じた初期管理を実施する姿勢が求められる.すなわち,内科医の皆様が日々行っている,鑑別診断と治療を並行して進めるというスキルは,急性中毒の診療においても最大限に活かされる.
本特集は,内科医が急性中毒の診療において臨床スキルを発揮できるよう支援することを目的に企画した.総論のchapter 1「急性中毒へのアプローチ」では,①全身管理,②吸収の阻害,③解毒・拮抗薬の使用,④排泄の促進,⑤精神科的評価という「急性中毒治療の5大原則」を整理し,臨床でどのように適用すべきかを提示した.これらは現場で優先順位を判断し,治療戦略に反映するうえで重要な枠組みを提供する.
続くchapter 2「ケースで学ぶ 急性中毒の診断と治療」では,症例を通じて初期対応から治療選択に至るプロセスを具体的に解説した.症例形式により,内科医が日常的に用いている思考過程を中毒診療に応用する方法を示すとともに,個別薬物や毒物に対する特異的治療の実際を整理する.とくに,治療原則の適用判断やそのタイミングを症例に即して提示することで,診療現場で直接役立つ実践的知識を提供することを意図している.
急性中毒は発症頻度こそ高くないが,その重篤性と迅速な判断を要する点から,内科医が遭遇した際の初期対応が患者予後に大きく影響することもある.本特集が,急性中毒診療に関する体系的な理解を深めるとともに,日常診療において「中毒を疑う視点」を実践に活かし,初期対応に自信をもって臨むための一助となれば幸いである.
喜屋武玲子
(埼玉医科大学 臨床中毒科)
【目次】
[特集]
急性中毒の初期診療と管理
内科医が読んでおきたい診断・治療のケース集
企画:喜屋武玲子
[Chapter 1]
急性中毒へのアプローチ
急性中毒の診断 松本大賀
急性中毒の情報収集 東 秀律・青木杏奈
急性中毒治療の5大原則 全身管理,吸収の阻害,解毒・拮抗薬,排泄の促進,精神科的評価 薬師寺泰匡
[Chapter 2]
ケースで学ぶ 急性中毒の診断と治療
たばこ 青柳有沙
洗剤・漂白剤 磯川修太郎
催眠・鎮静薬 香月洋紀
環系抗うつ薬 竪 良太
炭酸リチウム 倉松佑守・竹内慎哉
抗てんかん薬 畠中健吾
循環作動薬 石橋拓恵
鉄剤 永山智久
カフェイン 廣瀬柊弥
解熱鎮痛薬 小橋大輔
鎮咳去痰薬 テキストロメトルファン,ジフェンヒドラミンによる急性中毒 正田光希 ほか
睡眠改善薬 ブロモバレリル尿素による急性中毒と慢性臭素中毒 井上史也・岡崎悠治
除草剤(グリホサート,グルホシネート) 久下晶子・北井勇也
殺虫剤(有機リン系殺虫剤) 佐藤信宏
石油製品 宮本颯真
シアン 森 来実
メタノール,エチレングリコール 小原佐衣子
一酸化炭素 吉田一英・文屋尚史
塩素ガス 花澤朋樹
毒キノコ 田根志帆 ほか
有毒植物 畠中茉莉子・盛實篤史
蛇咬傷 伊賀健一郎・山内素直
覚醒剤,大麻,麻薬,危険ドラッグ 水野雄太・中村光伸
[鼎 談]
本邦における臨床中毒学教育の現状と課題 世界との比較を含めてoverview
喜屋武玲子[司会]・千葉拓世・舩越 拓
[連載]
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