植物にあまり関心のない人でも知っている樹木といえば、サクラとイチョウでしょう。
全国各地に約50万本の街路樹が並び、寺社のご神木としても多くの巨樹が知られています。
秋には黄葉が観光の名所となり、東京・大阪・神奈川ではシンボルツリーに指定されるなど、まさに日本人に最も親しまれている木のひとつです。
しかし、その正体は意外と知られていません。
イチョウには親戚がおらず、一属一種として唯一生き残っている存在です。
恐竜時代から氷河期を経て仲間が絶滅するなかで、ただひとり現代に生き残った“特別な木”なのです。
近年、海外ではイチョウに関する本が次々と刊行され、世界的な注目が高まっています。
一方、日本の出版物には誤った記述や思い込みも少なくありません。
本書は、著者が長年の観察を通して事実を検証し、その実像に迫った一冊です。
葉や幹、根の特徴、精子が水中を泳ぐという驚きの繁殖法、さらに江戸から明治にかけての研究史なども紹介。
身近な一本の木を通して、自然科学の奥深さと探究の喜びを味わえるでしょう。
読み終えたとき、道端のイチョウがまったく違って見えてくるはずですよ。