人生は逆境に満ちている。それが深刻な精神病理を引き起こす可能性があるのは間違いない。しかし同じようにトラウマを経験しても、回復力=レジリエンスを発揮する人もいれば、何らかの病に陥る人もいる。その違いはどこからくるのだろう。
トラウマの概念の漸動に警鐘を鳴らす著者は、膨大な研究文献を検討し、抑圧されたトラウマ記憶、幼少期の逆境体験とPTSD、トラウマ体験とパーソナリティ症、等々に関する誤解を解いていく。さらに生物・心理・社会モデルを用いて、トラウマ的出来事がその人に与える影響の大きさの違いを、性格特性、気質、社会背景といった視点から明らかにしている。PTSDは、さまざまなリスク要因の相互作用によって生じる転帰としてとらえる必要があるのだ。
PTSD治療において重要なのは、患者が「犠牲者(victim)」ではなく「生き延びた者(survivor)」として自分自身を捉え直し、人生の主体性を取り戻すことへの支援である。実証的エビデンスに基づいた、患者のレジリエンスを育てる治療を目指す支援者の羅針盤となる一冊である。
原書名:Myths of Trauma: Why Adversity Does Not Necessarily Make Us Sick