21世紀に入り、「インド太平洋」という言葉は地政学的・戦略的な概念を伴うものとして広く知られるようになった。しかし、実際の「環太平洋」地域は大航海時代以降、西洋列強の植民地に組み込まれ、第2次世界大戦では激戦地となるなど、常にコロニアリズム(植民地主義)の只中にいた。そのくびきは今も色濃く残る。
日本は第1次世界大戦後に「南洋群島」を信託統治したことでコロニアリズムの一翼を担ったが、戦後、文化人類学を中心にポストコロニアル議論が展開されたにも関わらず、「環太平洋」は学校での社会科・地理・歴史教育からすっぽりと抜け落ちてしまっている。その結果、“南の島”や“リゾート”といったステレオタイプなイメージばかりが先行し、環太平洋と日本はこれまで何も関わりがなかったかのような扱いになっている。つまり関心が薄いのだ。
そんな環太平洋地域との関係を、グローバル・ヒストリーという観点から問い直そうというのが、本書の試みである。日本人に希薄な環太平洋市民意識と連帯性をどのように醸成していくのか――。本書はその考え方と、音楽や食料品などといった題材を用いた小・中・高校での授業の実践例を挙げながら、国際理解教育の現場に迫っていく。