中国新文学草創期を彩る異才の全貌!中国近代文学史上に独自の地位を占めている郁達夫(1896~1945)についての論文8篇を収録。力強い主観、感傷的な詩情、軽妙な筆致を併せ持つ小説、生活苦や欲望を赤裸々に告白した日記、自らの心情を自然の情景の中に巧みに詠み込んだ詩を詳細に分析する他、10年間留学した日本の文学・文化との関わり、さらには日本で触れた欧米の文学・思想の影響など、多方面から郁達夫の世界を浮き彫りにする。
●編著者のことば
中国文学が郁達夫への関心をとりもどしたのは、1980年代に経済発展がはじまって以後のことらしい。これは中国が経済発展を遂げることによって、文学のテーマが個人の内面、個我の歴史のほうに移ったことと関わりをもつかもしれない。そのことによって、研究テーマとしての郁達夫が復活したとおもわれる。かつて竹内好さんも注目し、胡金定さんもいま関心をもっている郁達夫とルソー、あるいは自我絶対主義者のシュティルナーとの内的関連がより大きく浮上してきているということかもしれない。いずれにせよ、魯迅とは別の中国文学の鉱脈の可能性をこんにち郁達夫の文学は示唆しているのだろう。(松本健一)