太平洋戦争末期の1945年(昭和20年)3月10日未明、約300機のアメリカ軍爆撃機B-29が東京上空に飛来、焼夷弾による猛火の嵐が市民を襲い、約10万人が死亡、約100万人が焼け出される大惨事となった。
日本とも縁の深いアメリカの軍事史家が、各種の記録と日米をまたぐ調査をもとに、この大空襲と余波――「黒い雪」(戦時中に東京に滞在したフランス人記者R・ギランの言葉)――を五感に訴える筆致で再現する。米陸軍航空軍の発展史、指揮官カーティス・ルメイの肖像、東京を起点とする日本全国への無差別爆撃が広島・長崎への原爆投下につながる流れまでも詳述する。アメリカ軍の元操縦士や爆撃手、早乙女勝元氏をはじめとする大空襲の生存者にも直接インタビューした稀有な歴史ノンフィクション。
〈早乙女氏や他の生存者が、痛ましく、ほとんどが悲劇的な個人の物語を進んで私と共有してくれたことには、いくら感謝してもしきれるものではない。彼らの体験が、夜間空襲が銃後を戦場に変え、民間人と戦闘員の違いがなくなった戦争の最後の数カ月間を特徴づける総力戦の恐怖を、現代の読者が理解する助けになればと思う〉(「日本語版に寄せて」)