【序章「漢魏交替期と儒?」より】
後漢の滅亡から隋の天下統一に至るまで、中国は三百年以上に及ぶ長い分裂期にあった。後漢の滅亡は、当時の正統教学であった儒?の価値を毀損することとなる。分裂期の端緒たる三國時代には、「四學三教」と言われる新たな文化的価値が擡頭した。かかる特徴こそ、この時代が中国史における一大変革期と目される所以であろう。ただし、儒?の価値が完全に損なわれたわけではない。知識人や官僚たちは、儒家の思想や經學を換骨奪胎しながら、新興の文化を受容していった。こうした文化に通じることは、両晉南北朝期の貴族に見られる特徴の一つとして挙げられる。
これを踏まえて本書は、第一に、「人物評価の展開」と題して、後漢末以降に隆盛した人物評価のあり方を検討する。後漢末から三國・西晉にかけての儒?官僚層の政権内における政治的位置づけを整理し、かれらの人物評価および評論に見られる思想的特徴を照射するものである。人物評価と密接に関わる九品中正制度の成立が貴族制を生んだことを勘案すれば、その評価のあり方を探るのは、政治・思想史において大きな意味を持とう。
第二に、「正統性と鼓吹曲」と題して、自らの政権存立の大義・正統性を示した政治的宣伝、具体的には鼓吹曲を取りあげる。同じ中国史上の分裂期でも、春秋時代は名目上とはいえ周室を尊重していた。換言すれば、尊重すべき盟主が存在していたのである。しかし、三國時代は統一帝国たる漢が滅亡し、尊重すべき存在がなかった。それゆえ各政権は自らの正統性を主張する必要に迫られた。漢の継承を主張する蜀漢はともかく、かかる情勢下にて、曹魏・孫呉・西晉はその手段の一つとして鼓吹曲を用いたのである。本書はその詞に見られる正統化の理論とその根拠を考察する。