僕には十年に一度ほど、まるで珍種の特別な植物のように、自分が育ったはずのこの国の風土に心地よく適応していくのがひどく困難な季節がやってくる。異なる風土の滋養を吸い上げて、孤独な充電の旅に出るために、充電に電源が必要なように、僕はアジアの小さな小さな国を選んだ。それが小乗仏教発祥の国スリランカだった。いい年をして、僕は仕事を一時中断し、かつてそうしたようにたった一人の旅に出た。
権力や地位や富とも縁がなく、貧しくとも、小さなものから大きな喜びや感動をもらって生き抜いていこうとする市井の人間たちに僕はいつも興味を抱いていた。彼らは社会に浮上してこないけれど、実は底知れぬ能力を持ち合わせた人々であり、「平凡に生きる能力」を持った人々だと僕は思っている。つまり歴史に埋もれてしまう人々だが、彼らこそが歴史を作り上げてきたのだとの思いは変わらない。津波の被害も大きく、タミル人テロリストにも悩み、常に大国の謀略に翻弄されてきた過去を持ち、様々な問題が山積している国に生きている、そんな人々の中に深入りしてみたかった。必ずパワーをもらえることが分かっていたからだ。
この本を読みながら、僕と共に旅をしていただきたい。(「はじめに」より)