「表面的に見えているものとは異なるものを読みとること」としての言葉遊び
本書は「エクソフォニー(Exophonie:母語の外へ出ること)」という語で表わされる文学観を実践しつづける作家・多和田葉子の作品群から、日本語で書かれた中・長編小説を選び、多和田のエクソフォニーを支えたモチーフと理論について書く試みである。各章は、対象作品の製作年代順に配置され、4部構成になっている。読んだことのある作品論から読むことをお勧めしたい。読んだことがなければ第2章『犬婿入り』論、第3章『文字移植』論あたりから入るといいかもしれない。多和田にあっては「言葉遊び」など、2つの言語のあいだにある溝から発せられる文章はもちろん、クィア/フェミニズム的モチーフ(父系の交換体系批判という問題意識)と、ベンヤミンやフロイト=ラカン、ドゥルーズ+ガタリなどの理論という地図をある程度意識し、それらとの不断の対話があってこそ、30年以上にわたるエクソフォニー、そしてエクソフォン文学が息切れすることなく、溺れることなく、また単調になることなく紡がれ、読者に複雑なインパクトを与え続けているのだ、ということが本書において伝えることができればと切に願う。