スペイン人でもっともノーベル文学賞に近い作家によるジャズ・ピアニストの「愛」と「放浪」の物語。事実とフィクションが混淆する物語が進行するにつれて、語り手がテーマ及び登場人物の物語に巻き込まれてゆく風情は、映画『第三の男』を想起させるものである。
スペイン/フランス国境・バスク地方サンセバスチャン。反体制集団ETAは、バスク独立を目指し、スペインのフランコ独裁時に権力を握った者たちを殺害して憚らなかった。1980年代初頭、独裁体制崩壊後の急激な解放、自由化による移行と浮遊に人々が流され、麻薬取引、性犯罪が横行、旧支配層による国会占拠事件等、不安定で薄気味の悪い事態を経て、一応の安定をみる社会労働党政権が発足した時期、この小説は発表されている。米国の大衆文化が一挙にスペインに流れ込んできた民主主義への過渡期の空気感が、本小説のフィルム・ノワール的雰囲気を形づくっている。原書名【El invierno en Lisboa】