「サーメ」という言葉を耳にしたことがあるだろうか。サーメとは、スカンジナビア半島北部を中心に、トナカイ放牧で生活する少数先住民族のことである。サーメ語で「サプミ」と呼ばれる彼らの先住地域は、現代の国境でいえばノルウェー、スウェーデン、フィンランドの北欧三か国とロシアに分布し、現在居住している各国の「先住民族」として位置づけられている。
他国の先住民族と同様、サーメもまた差別や抑圧に苦しめられた歴史をもつ。19世紀後半から約100年間続いた居住各国政府による同化ないし分離政策は、サーメの言語や文化、そして彼らのアイデンティティを奪い取っていった。近代化の思想が、原始的な狩猟採集やトナカイ放牧を生業とするサーメに対して「貧困」というレッテルを貼った。そして、サーメたち自身も、自らがサーメであることを否定するようになっていった。
しかし戦後、北欧諸国はサーメに対する政策を180度転換し、先住民族としての権利を保障しはじめる。彼ら自身も、復権のための活動や民族文化を再評価する運動を起こしていった。そして21世紀に入ると、「僕たちは自身の民族性を誇ることのできる第一世代かもしれない」と言えるだけの若者が現れる。極北の自然環境のなかで育まれたサーメ独特の言語や文化は、いまや次世代に継承されつつある。
本書は、このような若者を育む土壌の役割を果たした教育機関「サーメ学校」に焦点を当て、7年間のフィールドワークをもとに、その実態を描いたものである。そこでの教育内容は、トナカイ文化を中心に考案されており、実にユニークで魅力にあふれている! もちろん、学校が経営面で大きな困難に直面したこともあるし、いまも課題は山積みだ。しかし、それらを乗り越えるだけのタフさと、困難に耐えた先に見出される意義が、この学校には確かにあった!(はせがわ・のりこ)